企業間の税率伝達で思わぬ事態 メーカーの認識不足など響く 消費税軽減税率
1日からスタートした消費税軽減税率制度で、企業間の税率情報伝達をめぐって思わぬ事態が発生している。メーカーは制度実施までに自社商品の軽減・標準税率を確定して販売先へ通知する責務があったにもかかわらず、それが滞りなく果たされなかったためだ。業界標準商品データーベース(DB)を運営するジャパン・インフォレックス(JII)は1年越しでメーカーへこの対応を呼び掛けてきたが10日現在、同社DBへの税率登録はようやく7~8割へこぎつけた状況だ。背景には主に中小零細メーカーの責務に対する認識不足や対応の遅さが挙げられ、裾野の広い食品業界で制度を周知徹底させることの困難さが浮き彫りとなった格好だ。(篠田博一)
軽減税率は酒類や外食を除く飲食料品が対象だが、中には一体資産(玩具菓子やアソートギフトなど)のように線引きが複雑なものも存在する。このため原価構造を知るメーカーが自社商品の税率を確定した上で、販売先となる流通業へ通知する責務があった。
当初、業界ではJIIのDBにメーカーが滞りなく税率情報を登録さえすれば、それを介して卸、小売業への伝達が円滑に進むとの見通しがあった。JIIのDBはメーカーがオンラインで登録したものを主体に約240万件の商品情報(メーカー数は約8500社)を網羅し、加食や酒類、冷食、日配チルドなど国内主要流通の8割程度をカバーする業界最大の共通商品情報基盤だからだ。
三菱食品や日本アクセス、国分グループ本社、加藤産業といった大手卸各社はここから商品マスターを取得し、価格やコード、荷姿、品質系などの情報を小売業との商取引や物流含む卸業務全般に活用している。
このためJIIでは昨春から入念な準備を始め、過去3年間にDB内で新規登録などの動きがあったメーカー4800社を抽出。人を増員してこれらメーカーへ電話やDMを通じて同社DBへの追加登録を働きかけ、2800社から返答を回収。その後も反応のない企業に対し、繰り返し対応を呼び掛けてきた。
それでもメーカーの対応は十分に進まず、制度直前の9月には卸各社がメーカーへ税率を直接問い合わせるなど業務負荷が増大。JIIは現状でDBへの登録を7~8割までこぎつけたものの、未登録となっている商品については、本来メーカーが担うべき税率判定を卸が肩代わりして出荷しているものと思われる。それが今後、企業間の取引や店頭における税率誤認など、一部で混乱が起きる可能性もゼロとはいえない状況だ。
今回の事態について、JIIでは「制度に対するメーカーの腰の重さや認識不足、裾野の広い食品業界の構造的な問題、そこに対する効率的な情報伝達の難しさ」(同社・西田邦生社長)が浮き彫りになったと指摘する。現状のDB登録率である7~8割は大手卸経由の取引のため組織小売業市場のカバー率とほぼ比例するとみられるが、税率伝達の責務を果たしたのは、大手など有力メーカーが中心となった可能性が高い。
JIIDBで多くの比率を占める中小零細メーカーには「当社の扱い商品は全て軽減対象だから登録の必要はない」など誤った認識を持つ企業も見られ、システムベンダーの多忙で大手も影響を受けるなど個別事情も重なり、業界全般に対応が遅れた格好だ。
今後、JIIでは未登録メーカーの状況改善へ向け、日本加工食品卸協会を通じた取組みなどで業界への呼び掛けを強化。DBへの税率登録ミスの修正に注力しつつ、入力仕様の変更で新製品に関しては誤りが起きない仕組みを整えた。また今回、最大の課題として浮上した食品業界への効率的な情報伝達のあり方も模索していく。「23年のインボイス制度への移行時、同様の事態が起きるようでは困る」(西田社長)と先も見据え、メーカーとのパイプを強化するためのユーザー会の設立などを実施していく。