日本発、世界が認める水産エコラベル推進 MEL協議会・垣添直也会長に聞く

MEL協議会 垣添直也会長

MEL協議会 垣添直也会長

MEL認証水産物・日本地図(注:図中の認証数は2022年1月5日現在)

MEL認証水産物・日本地図(注:図中の認証数は2022年1月5日現在)

MEL認証商品を神谷崇水産庁長官(中央)と白須敏朗大日本水産会会長(右)に説明する垣添直也会長(左)(昨年の東京シーフードショー)

MEL認証商品を神谷崇水産庁長官(中央)と白須敏朗大日本水産会会長(右)に説明する垣添直也会長(左)(昨年の東京シーフードショー)

MEL認証ブリ(イトーヨーカドー木場店鮮魚売場)

MEL認証ブリ(イトーヨーカドー木場店鮮魚売場)

 ◆マリン・エコラベル・ジャパン協議会設立5周年 新しい社会支えるインフラへ

 マリン・エコラベル・ジャパン(MEL)は2021年12月に、新MELとして再スタートしてから満5周年を迎えた。この間、19年12月にGSSI(グローバル・サステナブル・シーフード・イニシアチブ)から国際標準の水産エコラベルスキームとして承認され、21年11月には承認継続審査を完了した。21年12月末現在、会員数44社・団体、認証発効数158件、認証魚種25種、ロゴ付き流通商品数91品(22年3月発売開始予定含む)と国際標準の水産エコラベルスキームとして日本の社会において一定の存在感を示している。日本の食料問題の将来にとって水産物の持続的利用が不可欠であると考え、その認証制度を運営しているMEL協議会の垣添直也会長に話を聞いた。(日本食糧新聞社・今野正義会長CEO)

 ●独立法人として再スタート

 –活動開始5周年、合わせて国際的に水産エコラベルの承認を行うGSSIからの承認継続審査完了、おめでとうございます。

 垣添 MELの再構築が持ち上がったのは、16年5月に開催された自由民主党水産政策小委員会(当時)での「オリ・パラ(2020東京大会)への対応と水産物輸出に資するにはMELは現状で良いか」の問題提起だったと認識しています。直ちに、当時スキームオーナーだった大水(大日本水産会)と水産庁は有識者会議を立ち上げ、海外の先進事例の調査を開始しました。その年の10月には、MELを国際標準化するとの方針が承認され、大水から独立して一般社団法人として再スタートすることが決定されました。

 –垣添会長は13年6月に日本食糧新聞社主催の食品経営者フォーラムで講演いただき、当時からサステナビリティに見識をお持ちでした。欧米におけるサステナビリティの流れがやがて日本にやってくることを予言しておられた。その元となるきっかけは。

 垣添 私の社会人としてのスタートは捕鯨でした。当時、捕鯨は花形の国際漁業で、特に南氷洋捕鯨は「捕鯨オリンピック」と呼ばれ、英国、オランダ、ノルウェーなどの漁業先進国がしのぎを削っていました。大学で水産を専攻した私にとって、ぜひ体験してみたい現場でした。ところが中に入ってみると、外の華やかさとは裏腹に、すでにクジラの資源は極めて厳しい状況になっていました。南氷洋捕鯨はIWC(国際捕鯨委員会)により科学的な調査データに基づき厳密に管理されていましたが、それでもこれがオリンピック方式の下での国際漁業が現実でした。

 私は1964年にサウスジョージア島基地捕鯨に志願して参加しました。海外基地捕鯨での捕獲はIWCが決める母船式捕鯨の捕獲枠に入らないルールだったため、IWCによる急激な捕獲枠削減への対策として取り組まれたのがサウスジョージア島にあるイギリスの会社が保有する遊休基地を借りて操業する事業でした。

 この時サウスジョージア島で出合った過去の先進国による乱獲の跡が、当時まだ26歳だった若者の受けた衝撃が資源保護への関心の原点になりました。記録ではサウスジョージア島捕鯨の最盛期だった1925/26年漁期にはナガスクジラ5709頭、翌26/27年漁期にはシロナガスクジラ3689頭を捕獲しています。この大きな数字の陰で、処理し切れずに廃棄され風化に任せたクジラの骨が累々と横たわる様には言葉もありませんでした。

 –一般社団法人の立ち上げは大変だったでしょうね。

 垣添 まず人がいない、お金もない、社会的認知が全くないのは苦しかったですね。それでも、行政により新たな水産基本計画に「水産エコラベルの推進」が盛り込まれたことをきっかけに水産エコラベルの普及が政策となり、MELの活動もようやく動き出しました。MELは自らの立ち位置を日本の多様な自然、産業、食文化を特徴とする水産エコラベルを構築すると決め、「日本発、世界が認める水産エコラベルをつくる」を標榜(ぼう)することとしました。2018年6月には事務局体制を整えGSSIへの承認申請の準備に取りかかりましたが、申請は結局18年9月になりました。この間の関係の皆さまの支援とスタッフの努力には頭が下がります。

 –GSSIの承認は19年12月で、MELからのアナウンスはオリ・パラ開会の1年前の6~7月というイメージでしたから、政治も、行政もしびれを切らし、われわれもずいぶんやきもきしました。

 垣添 実は、MELは19年12月13日に関係者に集まっていただき水産エコラベルに関するワークショップを開催する準備をしておりました。日本発の国際標準の水産エコラベルスキームとしてのお披露目の場として、内外の関係者に声掛けをしておりました。

 結局、GSSIの理事会によるMELの承認はワークショップ開催の前日で、ホームページ掲載はワークショップ当日となり、冒頭の主催者あいさつで何とか承認が得られたことを皆さまに報告するというきわどさでした。

 それでもMELは世界で9番目、アジアで初めてのGSSI承認スキームとなりました。

 –GSSIの承認は国際標準化実現というミッションには沿っているが目的ではない。目的という点で、垣添会長はどのように考えられたか教えてください。

 垣添 認証制度が社会の信頼の上に成り立つ仕組みである以上、GSSIの承認はスキームオーナーであるMELだけでなく認証・認定機関、認証事業者が厳しい基準順守を求められるのは当然です。MEL協議会は、認証取得者とともに正しい行動と関係者の幅広い協働を通して、日々改善を重ねながら「世界で認められるスキーム」として進化し続けることをワークショップの座長総括において内外に宣言しました。

 同時に、MELが社会の役に立つためには、認証取得者が健全に事業運営できなければなりません。水産業は人類の共通財産である海を仕事場として世界のさまざまな国が関わる産業ですから、国連海洋法条約に定められている沿岸国の権利と責任を果たすためにも、また日本の多様な水産業、食文化を守るためにも、日本は自らの事業と国益を守る認証制度を確立しなければならないと心に決めました。

 ●日本ならではの魚食文化を

 –5周年、GSSI承認継続し、認証件数200件が目前の現在、今後MELに何を期待したら良いでしょうか。

 垣添 もう5年、まだ5年かもしれません。発効認証件数もまだイメージしている500件の3分の1にすぎません。しかし、コロナ禍の中で静かに進んだエシカル消費やSDGs実現への行動の広がりがMELにとってまたとない追い風となりました。

 何はともあれ、「水産エコラベルは新しい社会のインフラ」と誰もが認める時代を実現したいと願っています。

 今日本は、水産物の輸入大国から輸出する国へとかじを切ろうとしています。20年12月に策定された30年の水産物輸出目標の1兆2000億円は、19年実績比約4倍、19年の漁業生産実績の8割という高いレベルです。20年に公表された「養殖業成長産業化総合戦略」でも主要魚種の生産と輸出拡大が数値目標化されています。このような大変革機に当たり、MELは政策を支えるインフラとして、また消費者のエシカル消費につながる水産エコラベルへの期待に必ず応えます。

 このためにMELは、日本の多様性に立脚したMELならではのアイデンティティーの確立(差別化)が求められます。MELは新漁業法の下、事業者および関係者とともに資源管理でも、事業運営においても国際的に通用する理論構築と透明性の高い活動を推進しなければなりません。

 具体的には、(1)国際的な地位をさらに高める。そのためにGSSIの新基準(バージョン2.0)への承認申請、海外スキームとの相互承認をCoC(流通加工)認証について推進、併せてMELロゴの海外登録を行う(2)MELの活動への社会の信頼を高めるため、アドバイザリーボードの機能充実、審査体制の強化、審査報告書のピアレビューの完全実施などを進める(3)小売業、外食産業の皆さまのMEL・CoC認証取得を推進し、生産から消費までのトレーサビリティーを約束する仕組みを強化する(4)養殖業成長産業化戦略に合わせて、養魚用飼料とその原料となるフィッシュミール・魚油のMEL認証制度を開発し導入する(5)社会と消費者とのコミュニケーション強化のため、各種イベントへの参加とSNSを使った発信に積極的に取り組む–を一つ一つ実現し、日本ならではの豊かな魚食文化を明日に紡ぎたいと考えています。

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