東京パスタの新潮流 専門店化加速中
「○○を食べたいから外食する」という目的来店型の傾向が高まっている昨今、特定のメニューに絞り込んだ専門店が増え始めている。パスタ店でも、和風、トマト、クリームソースといった多彩なメニューを打ち出すのではなく、1種類のベースに特化したタイプの店が目に付くようになってきた。東京で好調のメニュー特化型パスタ店事情を探った。
◆サラダパスタ専門:「SalaSpa」 正統派パスタとは一線を画す野菜たっぷりの魅力
「SalaSpa」は、サラダパスタに特化したありそうでなかったパスタ店だ。青山凌大社長によると、コンビニなどでかつては夏季の季節商品だったサラダパスタ惣菜が、近年は通年販売が定着したことに着目し、「サラダパスタ自体のニーズはあるが、専門店はない。誰もまだ手掛けていないのなら、自分が挑戦してみたい」と、21年3月に同店をオープンした。
調味ベースは、自家製の和風を筆頭に、ごま、バジル、トマト、タラコのほか、時期によってオイル、ナポリタンなども加わって多彩だ。王道のイタリアンパスタとは一線を画し、「日本の食材のおいしさを打ち出したかった」として国産食材にこだわる。仕上がりも「日本料理のカテゴリーに属するようなパスタですね」と、青山社長は言う。また、サラダパスタというとパスタが少なめの商品が多いが、同店は通常のパスタ1人前と同程度の分量。具材もたっぷりと盛り付け、男性客でもお腹いっぱいになるため、男性ファンも多いようだ。
サラダパスタのみの展開は「寒い季節はやはり難しい(苦笑)。スープを添えるなど工夫しています」(青山社長)と難点もあるが、一方で「例えば刺身と合わせることもできて、他店にはない味が打ち出せる。初めに調味を決めてしまえば、あとはパスタにあえて具材を盛るだけで出来上がる。現場の料理人にも任せやすい」と、青山社長は語っている。
●店舗情報
「SalaSpa サラダパスタ専門店」
東京都港区芝2-16-10芝パークアベニュー1階
日販=平日100食、休日30~40食(テイクアウト、デリバリー込みの数字)
◆カルボナーラ専門:「ハセガワ」 カルボナーラに特化し7種類の異なる味を展開
カルボナーラだけで展開するのが、東京・神楽坂の「ハセガワ」だ。長谷川浩平社長はかつて、イタリア料理店で働いていた際、カルボナーラだけでもさまざまなアレンジがあることを知った。日本では生クリームを使用する店が多いが、本場イタリアでは生クリームを使わず、またチーズを変えるだけでも味わいが大きく変化する。その奥深さに魅力を感じ、試作を重ねて専門店を立ち上げるに至った。
同店では6~7種類のカルボナーラを展開している。生クリームは使わず、卵、チーズに隠し味で和風のだしを加えているのが特徴で、「濃厚だけどベトつかない、さらっと滑らかな舌触りになるよう、加熱具合に最も神経を使っています」と長谷川社長。従来のカルボナーラの魅力である濃厚で滑らかな味わいはそのままに、国産山椒でアレンジしたり、爽やかなレモンの果汁をアクセントに使うなど、新しい発想を加えてカルボナーラのバリエーションを提案しているのだ。
「やはりランチ利用が多いですが、お酒をゆっくり飲み、カルボナーラで締める夜のコース料理の楽しみをもっと広げたい」と長谷川社長は言う。
●店舗情報
「カルボナーラ専門店 ハセガワ」
東京都新宿区神楽坂3-6金井ビル地下1階
1日平均集客数=平日50~60人、休日100~110人
◆たらこスパゲティ専門:「東京たらこスパゲティ 渋谷店」 和のたらスパで女性客を魅了 モチモチ麺の工夫で商品力をアップ
特定ソースに特化したパスタ店が近年増加傾向だが、その中でひときわ個性が際立っているのがたらこスパゲティに絞り込んだ「東京たらこスパゲティ」だ。20年1月に1号店を東京・渋谷にオープンし連日行列の絶えない大ヒット。現在も既存2店の1日客数は350人を誇る盛況ぶりで、22年4月には池袋に3店目を出店した。
「頑張る女性を応援する店をコンセプトに、女性に圧倒的な人気を誇るたらこスパゲティに着目しました。専門店ならではのたらこスパゲティのバリエーションに加え、女性一人でも利用しやすい空間づくりにもこだわりました」と代表の中島宗則氏は語る。その狙い通り来店客の9割を女性が占めているという。
大きな特徴は「和食のスパゲティ」を強く打ち出し、ここでしか食べられないたらこスパゲティを印象づけていること。和食器を使用し、お箸で食べるスタイルがSNS拡散に貢献。看板商品の「炙りたらこのお出汁スパゲティ」では最初はそのまま食べ、途中から添えられただしスープを注ぎ入れてスープスパゲティとして食べる味変提案をしている。タラコを明太子に置き換えた「炙り明太子のお出汁スパゲティ」も用意し、2品を合わせた注文率は45%にも上る。
特筆すべきはタピオカ粉を練り込んだ特製の生パスタ麺。独特なモチモチ食感で中毒性が高い上に、ゆで上げ後20分経ってもモチモチ感を維持できるのだ。
●店舗情報
「東京たらこスパゲティ 渋谷店」
東京都渋谷区渋谷1-14-8 SKビル1階
1日平均集客数=350人
◆スープスパゲティ専門:「スプスパ」 追い飯で2度おいしい男性客6割の満腹パスタ
「スプスパ」の開業は約10年前。この店舗は以前、日本そば店だったという。元矢学オーナーシェフはフレンチ料理店やホテルの料理長を務めてきたが、「内装をひと目見た時に、居抜きで使うならこれはイタリアンやフレンチではないな、と。お箸で食べる麺類をイメージしました。それも、まだどこもやっていない業態を立ち上げたかった」と、どこにもない麺料理の専門店を目指してスープスパゲティ専門店をスタートした。
スープの味付けは、イタリアンにもフレンチにもこだわらない独自の味を貫いている。まず、パスタ店でありながらオリーブ油は使わず、自家製のガーリック油を使用。種類は常時7品程度用意しており、元矢シェフが丁寧に仕込んだフォンをベースに、カルボナーラやペスカトーレといった定番のパスタをスープにアレンジしたもののほか、醤油と赤ワインで調味した和風スープや自家製キムチを加えたもの、冷麺風など、スープスパゲティの枠にとどまらず独創的だ。
また、スパゲティは200g(ゆで上がり分量)と多めでありながら、さらには小ライスのサービスもあり、残ったスープに入れてリゾットで楽しめる。
「ラーメンの魅力に近いかもしれませんね」と元矢シェフが言うように、従来のスープスパゲティとは少し異なる魅力と、男性でも満腹になるボリューム感から来店客の男女比は6:4。まさに行列店のラーメンのような感覚で、支持されているようだ。
●店舗情報
「スプスパ」
東京都江東区石島14-7今泉ビル1階
1日平均集客数=30人
【写真説明】
写真1:生桜エビと新鮮な真鯛を散らし、すりおろしショウガをアクセントに添えた一皿
写真2:スープ・小鉢・デザート付き。自家製和風ドレッシングで調味した同店の名物サラスパのセット
写真3:生クリーム不使用、卵とチーズで作る同店の代表メニュー
写真4:バジルソースとフレッシュトマトをトッピングしたカルボナーラの概念を超える一皿
写真5:売れ筋1位の看板商品。タラコをたっぷり絡めたパスタ麺の上に、岩海苔、大葉、ごま、ミョウガ、ネギ、トビコ,穂ジソをトッピング。さらに炙りタラコをたっぷり天盛りしている
写真6:パスタの概念を覆す幅広の平打ち麺がユニーク。土鍋の蓋をしたまま提供し、開けた瞬間に湯気とともにまろやかな香りが立ち上る
写真7:イタリアンでも和風でもないオリジナリティーあふれる同店らしい一品
写真8:残ったスープにサービスの小ライスを入れてリゾットにする楽しみも