トップインタビュー ラーメン「とん太」秀穂・草野秀雄代表取締役社長

1996.05.06 100号 3面

‐‐回帰性の味作りに終始する「とん太」ですが、最近は「麺花」「千成」「とん太パート2」など新業態のアンテナ展開を積極的に進めています。狙いは何ですか。

草野 「とん太」本部はザー(フランチャイザー)がジー(フランチャイジー)にフィードバックする義務として、仕入れ、食材のスケールメリット追求と物流機能、メニューの充実に終始一貫して取り組んできた。「とん太」本部に残されたジーにフィードバックすべき課題は、人件費圧縮と厨房改革で固定経費を削減すること、そして年々速まるお客の味覚変化に合わせ迅速にメニューチェンジを図ることだ。そのノウハウを模索するために直営の各新業態を打ち出した。

‐‐具体的には。

草野 「千成」は初期投資を「とん太」の二分の一から三分の二に抑えた低投資モデルで、自己資金の少ないオーナーでも無理なく展開できる資本早期回収型の店舗業態を目指している。また「とん太」既存店とのバッティングを避けるため、麺、スープは別コンセプトとし、具材もチョイス式でトッピングを楽ませる工夫をしている。

「麺花」は店舗運営が女性スタッフだけの業態で、人件費圧縮とパートの合理的活用を目指している。パートを即戦力にするため、食材、調味料のすべてを一食づつポーション化し調理マニュアルを構築。また、クリーン、クール、コントロールの三Cを基調とする電化厨房を採用し、女性の働きやすい環境づくりを進めている。結果「麺花」の人件費は二〇%。「とん太」の二五~二八%に比べ大幅なコストダウンを達成した。

「とん太パート2」は新メニューのアンテナ展開を目的に立ち上げた。以前は七年周期をメドにお客の味覚変化を捉えていたが、最近は味覚変化のサイクルが四年周期に急速化している。既成概念を払拭したメニュー開発が求められている。

同店でそれを実践し、売れ筋アイテムをジーにフィードバックして行く。すでに、麺の増量や新発想の冷やし味噌ラーメンなどは、いままでに例のないユニークな取り組みとして好評を得ている。

これらのノウハウは店舗強化策として、既存店のリニューアル時に取り入れて行く方針だ。

‐‐ラーメンチェーンの繁盛は、製麺屋が自分の商品の卸先を確保するために起こした第一世代のチェーンに始まり、後にチェーンの脱退者もしくは個店が自らのノウハウを売り物に立ち上げた第二世代のチェーンに移り変わりました。そろそろ第三世代の繁盛チェーンが出始める時期です。現在のラーメンチェーン業界はどのような状況にありますか。

草野 第三世代はチェーン再編成の時代を迎えるだろう。最近はバブル後遺症と過剰出店で個々の店舗の売上げ低迷が顕著だ。なかでも卸業一辺倒だったチェーン、またチェーンを脱退したオーナー店舗が目立つ。

いままでは店を構えればある程度売れた。ラーメン店ならではの強味が反面足かせになり、自己努力を忘れてしまった結果だ。脱退オーナーにしても、ジーは所詮ジーのプロであって、そう簡単にザーのプロにはなれないということだ。

そしてチェーン内格差も一層開くだろう。「とん太」とて例外でない。チェーン全体では伸びているが、店舗ごとの売上げの伸びはばらついている。調理に慣れたからと料理人らしく計量を目分量で行ったり、味が良くて売れるからと接客が横柄になったりクリンネスを怠ったり。バブル時にこのような経営をしていた店舗は確実に売上げが下がっている。

一方、食材管理、配合、ポーションカット、サービスなどで、チェーン店の原則であるマニュアルを正確に遂行している店舗は着実に伸びている。「とん太」本部ではこの原則を徹底すべくスーパーバイジングに努力している。

‐‐ラーメンチェーン第三世代の勢力図はどのように変わりますか。

草野 ジーとザーの関わりが機能するチェーンはいくつかに絞られると思う。味づくり、本部の管理体制、現場のサービス徹底。第二世代のラーメンチェーンのうち、この三条件を満たすチェーンのみが勢力を拡大するだろう。他のチェーンは下火。

だからといって下火のチェーンをそのままにしておくことは、ラーメンチェーン業界にとってかんばしくない。いずれ下火のマイナスイメージが好調なチェーンにも襲いかかり業界全体が下降線をたどることとなろう。好調なチェーンは業界の底上げを図るべく、不採算チェーンの救済策を打ち出すべきだ。

‐‐具体的には

草野 上昇チェーンの生産能力、充実したノウハウ、物流、商品開発力を下降チェーンに供与しチェーンの立て直しを図る。つまりチェーンの吸収合併だ。

これは相手の屋号やチェーン本部は残したままでいい。救済するチェーンは自社生産の食材、資材、またそれらの仕入れにスケールメリットが生まれお互いにメリットを享受できる。いわば上昇チェーンはメーカー的役割を担う時代といえよう。

協調と競争の複合路線が今後のラーメンチェーン業界を盛り上げるキーワードだ。上昇チェーンはその機運高揚を牽引する義務がある。

‐‐今後、ラーメンチェーン業態の牽引者となることを期待します。ありがとうございました。(文責・岡安)

昭和18年、東京都生まれ。都職員を辞し、大型トレーラーの運転手として全国各地を回る。この時食べたラーメンは数限りなく、ついには自らの味を商品化し、実兄と共同でラーメン店を開業したのが47年。

その後「くるまやラーメン」としてチェーン展開するまでになるが、味をめぐって実兄と意見が対立、58年袂を分かち「とん太」一号店として独立する。

一杯一八〇円で、一日一〇万円を売上げる繁盛店に成長するなか、常連客から味ののれん分け希望者が続出、ついに58年、ラーメンチェーンとん太総本部(株)秀穂を樹立させる。

現在、加盟店三三五店、年商二三〇億円の「とん太」および低コスト出店チェーン「千成」を率いる総帥として、「低コスト&高収益」に挑戦し続けながら株式の公開を目指す。

引退後は、日本国内、世界各地を食べ歩き、新しいラーメンの味を発見したいという。「おいしいラーメンを食べさせたい」情熱は終生変わらないようだ。

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