食の視点 一点勝負・トン 豚 ton(その3)それぞれの味

1996.06.03 102号 18面

●ヒレからバラまで

牛肉ほど細かくはないが、ヒレ、ロース、モモのほかにも、肩ロース、外モモ、肩、バラなどに豚肉の部位は分けられる。ほとんど脂身のないヒレ肉は、あっさりした和風のトンカツの王様だ。ほどよく脂肪のついたロースはショウガ焼きがおいしい。そのロースよりも脂肪が少し多くて、味の濃いのが肩ロース。煮込み料理やローストに向いている。

塩・コショウをまぶして好みの香辛料を振りかけ、軽く油で焼いたものを、冬はジャガ芋と煮込んで熱いままに、夏は冷やしてスタミナスープになる。

これを大量に作り置きして、毎日玉ネギとか、セロリとかを加えて目先を変えれば、一人暮らしの人でも一週間栄養満点のスープが食べられる。最後にスープだけ残ったら、おじやにしよう。

バラ肉は赤身と脂身が交互に層をなしている三枚肉とも呼ばれる、腹の部分の肉。骨を付けたままにすると、若い人の好きなバーベキューで人気のスペアリブになる。骨に近いところの肉は、なにも豚に限らず、肉に限らずおいしいのだ。

バラは、角煮のように濃い味付けで煮崩れ寸前まで煮込むには最適の部位だ。あとのモモや外モモ、肩肉はひき肉やコマ切れにしたものが簡単に入手できるし、安い。野菜炒めもいいが、肉質がややかためなので、煮込みなどに使えばよいスープが取れる。

●所かわれば

豚肉のビタミン〓は牛肉の一〇倍ともいわれる。ビタミン〓は、日本人の国民病とまでいわれたかっけを始め、けん怠感、無気力などを解消する。受験生に多く食べてもらいたい肉だ。ただ、配合飼料がほとんどの現在でも、寄生虫が心配されるので、きちんと中まで火を通す調理法が大切だ。最近、肉の刺し身ブームだが、豚肉は気を付けて、火を完全に通した方が無難である。

外国では豚の血を使ってソーセージを作るとも聞く。鳴き声以外豚のすべてを食べる、とまでいわれる沖縄のミミンガー(耳)、豚足などは、東京人はちょっと目をむく料理だ。そういう東京人も、焼きトン屋には足を向けるではないか。

豚の肉はもとより、心臓、胃袋、腸、子袋など内臓のすべてを串焼きにして、和辛子と味噌を混ぜた薬味で大量に胃の腑に放り込む。バイタリティーを感じさせる。こうなると、豚という食材をいかにうまく食べこなすかが民族のアイデンティティーだったような気さえしてくる。

●安全にやろう

豚肉は、価格が安く、安定しており、どこでも手に入る肉ではあるけれど、最近では、黒豚のように牛肉よりも高価な豚肉から、清浄豚(SPF豚)のように病原菌に汚染されない状態で飼育されたものまでさまざまな豚肉が出回っている。

それぞれの用途に応じて、好みに応じて選べる時代になった。豚肉に限らず、フードサービスは、これらの変化に確実に対応していかなければならない。

フードサービスには、高品質でなおかつ安全な食材を選ぶ義務と権利がある。生産農家に対して、質の良い、安全性の高い食材を納めてもらうことを真剣に要求する権利がある。そのため、農家とのコミュニケーションと食材の研究は欠かせない。

その質の高い安全な食材を、消費者においしく、安く、安全なまま提供する義務も忘れられない。つまり、食材の入手ルートの確保、定期的・安定的かつ柔軟な供給体制と価格、店舗のオペレーションの受容能力、サービスの形態といったことを十分に考えて、そのわがままを聞いてもらえる業者や農家を作っておくことだ。

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