インサイドレポート 秘策練るラーメンチェーン店 「ラーメンとん太」

1996.08.05 106号 4面

競合激化の一途にあるラーメン業態、チェーン店の出店ラッシュにより市場はもはや飽和状態にある。新規出店があれば他店が淘汰されるといった“入れ替わり”が繰り返されている現状だ。チェーン各社はこの激戦に打ち勝つべく、また市場の限界を乗り越えるべく、さまざまな新戦略を打ち出している。その急先鋒、ラーメンチェーン二社の策略を追った。

「ラーメンとん太」をチェーン展開する秀穂(草野秀雄社長)がこの4月から、五〇円でソフトドリンクのサービスを始めた。コーラ、カルピスソーダ、オレンジソーダ、メロンソーダの四アイテムが一八〇ccのグラス一杯五〇円。いまのところ、直営店はじめ二五店の限定サービスだ。伸び悩む客単価を補うため、集客の目玉にする狙いがある。

集客法にソフトドリンクを選んだ理由を草野社長はこう説明する。

「ラーメンの値段は、これ以上上げられないし、接客サービスはお客によって受け止め方がまちまち。その点、ドリンクサービスは顧客増に直接結びつく」

これが図に当たり、ドリンクサービス導入後はファミリー客が目立って増えている。売上げの数字にもハッキリと効果が出ているという。

これに気をよくし6月からは、とん太の赤坂店でサントリー生「ホップス」中ジョッキを一〇〇円で提供している。今後もこうしたドリンクサービスを広げていく予定だ。

「ラーメンチェーンは淘汰の時代に入った」と草野社長は言う。五〇円ドリンクで集客を図る秀穂の姿にも経営環境が生やさしいものでないと感じられる。

しかし秀穂は新規出店のスピードを緩めようとしない。それどころかライバルチェーンの新店が年間二〇そこそこであるのに対し、昨年度実績が五〇店、今年度も六〇店程度の新店オープンをもくろんでいる。

大胆な出店攻勢を支えるのは、味への自信もさることながら、九四年にそれまで各店で仕入れていた原材料を本部一括仕入れに変え、原価率を三%下げて収益構造を強くしたことだ。さらにバブル崩壊以降の長引く不況で会社を辞め、ラーメン店を始めたい希望者が引きも切らないのも、追い風になっている。

秀穂はFC店からロイヤルティーは一切取らず、麺やたれなど主要食材の販売で利益を上げるスタイルを取っている。開店意欲の強い人にチェーン店を任せ、繁盛店になればおのずと食材販売量も増えていく。

が、ひとつ問題なのは開業資金。開業希望者の貯蓄額はよくて一〇〇〇万円のケースが多いという。ところが、とん太を開業するには約一八〇〇万円(二一坪、四七席)が必要。これでは、意欲はあっても資金不足であきらめざるを得ない人が出てくる。

そこで昨年秋から約一〇〇〇万円(九坪、一三席)で開店できる「千成らーめん」をオープン希望者に提示している。

千成は、店舗の建築コストがファミリーレストラン風のとん太(二一坪、四七席)より約四〇〇万円安い。しかも、広さからしてオーナー夫婦で十分切り盛りできる、いわゆるパパママショップだから人件費比率も低い。とん太の二五%に対して千成は五分の一の五%。その分、開業資金の回収は早い。

ラーメンの味は昔懐かしい味を目指し、とん太とはガラッと変えた。

「個人の味の趣向は千差万別。とん太は一〇人中三人が『うまい』と思う味づくりをしてきた。残りの七人に対しても『うまい』と言わせるラーメンが必要。その一翼を担うのが千成らーめん」。草野社長の言葉にも力がこもる。

千成は小資本の出店希望者に応えるばかりか、とん太の従業員の独立支援にも力を発揮する。ある程度キャリアを積んだ人を外に出し、とん太の人件費をアップさせない手だてでもある。さらにラーメン店が乱立気味になっても、とん太と千成はラーメンの味も店の形態も違うので、お客を取り合うことがない。同じ地域へとん太と千成の二つのブランドが出店可能というわけだ。

期待の大きい千成だが、店舗数はまだ四店。「まだ始めて一年たっていないという理由もあるが、自己資金に合わせて千成を提案しても、ブランド力の強いとん太を選ぶ人が多い」(草野社長)のが現状。しかし千成のブランド力がもう少し浸透してくれば、一気に店舗数が増えそうだ。

(株)秀穂/草野秀雄社長/千葉市中央区中央二‐五‐一/一九八三年3月設立/売上高二三一億二〇〇〇万円(九六年2月期、グループ全体)/店舗数(九六年7月末現在)三四五店(直営七、FC三三八)/社員数七五人/資本金五〇〇〇万円

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