飲食店成功の知恵(103)繁盛編 人件費の考え方(1)

1997.01.20 119号 20面

小規模店の大半は、いわゆるパパママ店である。夫婦二人が主力労働力となって、足りない分をパート、アルバイトで補っている店のことだ。また、そば・うどん店など古くからある業種には、一家総出の家族労働だけでまかなっているケースも多い。

それはそれでいいのだが、将来性を考えるといろいろと問題が出てくる。そのひとつが人件費の考え方である。

たとえば家族労働のお店の場合、「どうせ家計は一つなのだから」という経営者が少なくないが、こういう考え方ではビジネスとしての発展性がない。売上げが落ちるとまず家族の「給与」を削る、というのはよくある話だが、こんなことでまともな経営が成り立つはずがない。

もしも他人を使っていたらどうするのか。たしかに家族なら、運命共同体だからと納得してくれるかもしれない。しかし、他人の場合はそうはいかない。当然のことである。つまり、社員やパート、アルバイトを使っていたら、それこそ危機的状況に陥っているのに、本人はいっこうにその危機に気づかない、というところに大きな落とし穴があるのだ。何とかなると錯覚しているだけならともかく、そういうところが家族経営のいいところだなどと、平気な顔をしている経営者もいる。困ったものである。

家族の「給与」を削ってその場しのぎをしたとしても、経営が改善されるわけではない。それどころか逆に、どんどん状況が悪化していくことが多い。なぜなら、どんな問題点があって売上げが悪かったのか、その原因がまったく究明されていないからだ。これではいつまでたっても、繁盛は望めないし経営も安定しない。

どうしてこういうことになるのかというと、人件費がどういう費用なのか、その意味をきちんと考えていないからである。なかには、人件費など「無駄な費用」くらいにしか思っていない経営者もいるが、そんなことではいけない。

自分を含めて、たとえ身内であってもきちんと「給与」にする。そのうえで、お店としての利益が出るような経営を目指さなければいけない。「給与」とは本来、経営者の自分勝手な都合で増減できるものではないのである。

なぜ人件費が必要なのか、もう一度よく考えてみよう。もちろん、答えは決まっている。お店を運営し、利益を出していくのに必要な費用だからである。家族にしろパート、アルバイトにしろ、その労働力が必要だから使うのである。

しかし、勘違いしてはいけないのは、飲食店の従業員はたんなる労働力ではないということだ。サービス業としての付加価値を生み出すために必要なスタッフなのである。スタッフの働き次第で、お客のお店に対する評価が決まってしまう。だからこそ、繁盛したいと思っているお店はどこでも、「いい人材」を求めているのである。

もちろん、そのスタッフは奥さんや子どもたちでもいい。小規模店の場合、将来の再投資のために、利益をできるだけ内部留保していくことも大切である。奥さんや子どもたちが手伝うことで従業員や労働時間数が少なくなれば、売上げが効率よくお店の体質強化につながる。しかし、その考え方が正しいのは、家族労働力も「必要な費用」として考え、しかもお店の利益も確保できている場合だけである。

サービス業としてお客に認めてもらうためには、必要な人件費をかけなければならない。必要な人件費までケチるのでは、お客の支持は得られない。

人件費は大きな費用だ。だからその考え方には、経営者の本質がよく表れるのである。

フードサービスコンサルタントグループ

チーフコンサルタント 宇井 義行

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