シェフと60分 ジュンパタン・メラ支配人・長濱吉憲氏 インドネシアの掛け橋に
現在、東京都内にエスニック料理と称される飲食店は、六〇〇軒以上ある。だが、なぜかインドネシア料理を看板にする店は数えるほどしかない。そんな中で今年6月に東京・渋谷円山町にインドネシア・レストランとしてオープンしたのが「ジュンバタン・メラ」。現地語で赤い橋という意味だそうだ。ひさびさのインドネシア料理店といえる。
今では、すっかりオフィス街である渋谷円山町一丁目の一角に東印度館と名付けられたしょうしゃなビル。一階はインドの物産を売る店。そして、二階~四階が「ジュンバタン・メラ」である。入口にはインドネシアの石像が置かれて、ビル全体がエスニック調。
同レストランのオーナー兼支配人の長濱吉憲氏は、今年2月まで数少ないインドネシア料理店「ブンガワンソロ」(六本木)に二〇年間在籍したインドネシア料理に関してはベテランのコックさんでもある。
「これまでの経験を最大限に生かし、皆様により満足していただけるレストランを目指して専心努力したい」と語る。そのためにも、素材から最高のものを選んで、これはおいしいといわせて見たいという。また、インドネシアとはこれまで深いつながりがあるので日本との掛け橋になっていけるような店にしたいという考えを持ってのオープンである。
インドネシア料理は、バリ、スマトラなどの郷土料理と中国風、インド風、オランダ風の料理が加わって、それが一体となった料理だそうで、多種類のスパイスを使ったブレンド技術によるソースづくりが何んといっても必須条件のようだ。現在のところ、そのレシピー、そして素材の出まわりが見当らないところからあくまで自分でソースを作らなければならないところにインドネシア料理店が日本で少ない理由であるらしい。
二階はオープンキッチン、三階は普通のレストラン、四階はギャラリーとレストランバーという構成。とくに二階のオープンキッチンは「コックは常に緊張感を持って、お客さんに見られていなければおいしい料理は作れない」という持論から出来上がったという。屋台感覚である。コックと客が会話を交えながら料理に舌づつみを打ってもらいたいというわけだ。「コックさんの腕がスパイス。愛情がない人が作った料理には感動がない」とも付け加えるほど料理づくりにこだわりを持つ。
牛肉のココナッツクリーム煮、海老のココナッツクリーム煮、チキンのカレー煮、牛肉の辛煮(いずれもスープ、ライス、コーヒー付きで一一〇〇円)。ヤキメシランチ(八〇〇円)、ヘルシーランチ(九〇〇円)、ジュンバタンメラランチ(九五〇円)などの特選バリ・ランチのほかに月ごとに「シェフおすすめ料理」として、料理四品、デザート一品の五品種を新メニューとしている。例えば牛レバーのココナッツ煮(一八〇〇円)、鶏肉のシチュー(一八〇〇円)、ヤリイカのスパイス炒め(一八〇〇円)、スープ入りビーフン(一二〇〇円)、チェンドルデザート(六〇〇円)という具合である。
専門店である以上は、「これ出来るか、これあるかといわれて、出来ません、ありませんとはいいたくない。インドネシアに関しては、出来なければならないし、事実出来るんです。出来ないということはある面ではズボラなんです」と自分に厳しい人である。
文 ・服部 博
写真・新田みのる
〈プロフィル〉昭和27年京都生まれ。一九歳の時にバリ島のレストランでインドネシア料理と出合う。以来、料理中心にインドネシアと深い繋りを持ちながら現在に至る。