お店招待席 たん焼き「忍(しのぶ)」 客を待たせない無駄ないメニュー

1997.02.17 121号 6面

四谷の繁華街とはうってかわった静かな通りの一角にあるたん焼き屋「忍(しのぶ)」。しんしんと冷え込む夜にも、どこからともなく人が集まり行列ができるこの店の魅力を取材した。

午後6時、四谷しんみち通りから一本それた閑静な通りにある「たん焼き・忍(しのぶ)」は、早くも混みあっている。

切り株をそのまま用いたテーブル、一枚板のカウンター、座敷からなるたて長の店内は、炭火の煙と人いきれでむせかえるようだ。

この店の特徴は、客層である。小さな息子を連れた若い夫婦がいるかと思えば、老夫婦が仲良く皿をつつき、ネクタイをゆるめたサラリーマンの隣では女子大生のグループがはしゃいでいる。が、客層が広くなったのは、ここ二、三年で、以前は男性客がほとんどだったという。昨今の健康志向、和風ブームで人気が高まり、女性客や若者も並ぶようになった。

一八年前、ベテランの料理人でもある経営者の上杉徳治郎さんは、お酒をおいしく飲ませるための店を作ろうと、相棒に牛たんを選んだ。お客を待たせずに提供でき、なおかつ手間がかからないというのがその理由。そのこだわりは、シンプルで無駄のないメニューにも現れている。

メニューは、ずばり牛たんとサイドディッシュの二種類。「うちは飲み屋。牛たんはあくまでツマミ」と言い切る。たん焼き、たんシチュー、どて煮、名物ゆでたんなど、たんの味わいを生かしつつお酒を引き立たせるこだわりのメニューだ。人気は、六~七時間じっくりと煮込んで油を落とし、わさびで食べる「ゆでたん」で、厨房経験三六年の上杉さん自信の作。

7時を回ると混雑はさらに増し、店の外にも行列ができる。注文してすぐに料理が出てくるから回転が早い、回転が早いから客が並ぶ。一見怖いものなしの商品だが、一方で「牛たんは絶対数が少ないから価格の変動が激しくて、一年間で七割変わるなんてこともザラ。そのたびに値上げするわけにいかないから採算にぶれが出やすい商品」という問題も抱える。

それでも「メニューを広げたり手広くする気はない。うちは飲み屋だからね」。

どこまでも徹底した江戸っ子のこだわりが潔い。

★ゆでたん(やわらかく煮込んで厚みもある)………………………………………… 690円

★たん焼き(備長炭で香ばしく焼き上げた)………………………………………… 690円

★どて煮(たんとコンニャクの味噌仕立ての煮物)………………………………… 540円

★たんシチュー(じっくり煮込んだコクのある味わい)…………………………… 770円

★しょうが煮(たん佃煮風。テークアウトが多い)………………………………… 540円

たん焼き

「忍(しのぶ)」

〈創業〉一九七九年5月

〈所在地〉東京都新宿区四谷三栄町一六番地、Tel03・3355・6338

〈営業時間〉午後5時~10時30分、日・祭日休み

〈店舗面積/席数〉一五坪/四七席弱

〈従業員数〉社員八人、アルバイトなし

〈客単価〉三五〇〇円

〈一日来店客数〉一二〇人

〈客層〉さまざま

〈売上高〉平均月商一〇〇〇万円弱

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