飲食店成功の知恵(105)繁盛編 どんな利用動機を狙うのか
お客はなぜ、飲食店を利用するのか。あなたはこのテーマについて、真剣に考えたことがあるだろうか。そんなことは当たり前すぎて考えたこともない、という人は、頭の中がかなり硬直化していると反省すべきである。なぜなら、このテーマの追求こそが繁盛店への近道だからだ。逆に言えば、このテーマをないがしろにしているから、成功のチャンスをみすみす逃してしまうのである。
最初の問いに戻ろう。そう問われて「当たり前のこと」と思う人は、きっとこう答えるだろう。飲食をするために決まっているじゃないか、と。そして、たいていの経営者はそう答える。
もちろん、その答えは一面では正しい。だれでも飲食をしようと思うから飲食店に入るのである。その意味だけでいえば、なるほど「当たり前」のことではある。しかし、人間の消費行動はそれほど単純ではない。たとえば、食事ならコンビニで弁当を買ってもいいのだし、お酒は自宅で飲んでもいいのである。そのほうがずっと安上がりでさえある。それなのにどうして、わざわざ飲食店を利用するのだろうか。
たとえば、近所に事業所がいくつもあれば、昼のランチタイムには黙っていてもお客は入ってくるだろう。しかし、そういう立地でも夜の時間帯で苦戦を強いられているお店は多い。なぜなのか。
夜は夕食の需要があるはずではないか。それなのにどうして、昼は利用してくれるお客が素通りしてしまうのか。結論からいえば、ランチタイムは便利だから利用してくれているだけなのだ。コンビニと同じ利用動機なのである。
つまり「飲食をするため」というのは、飲食店の利用動機の必要条件ではあるが、十分条件ではないわけだ。稼ぎ時のはずのランチタイムでさえコンビニが脅威になっているのも、そのためである。
お客の飲食店の利用動機には、「日常的利用動機」と「非日常的利用動機」とがある。コンビニと競合しているランチタイムは、空腹を満たしたり栄養補給をするのが目的だから、「日常的利用動機」といえる。これに対して、家族とか恋人とか友達と食事をしたりするのは、いわばレジャーとしての利用だから、「非日常的利用動機」である。
どちらも、「飲食をする」ということでは同じである。しかし、飲食の目的はまるで違う。「日常的」のほうは飲食することそれ自体が目的だが、「非日常的」では飲食はひとつの手段にすぎない。飲食という場を通して、心の豊かさを味わうことが、主な目的といっていい。
自分のこととして考えてみると、この違いがよく分かる。たとえば、親しい友達と会って、食事をしたりお酒を飲んだりするとしよう。その時、食事やお酒はお店に入った第一の目的といえるだろうか。そういう人も中にはいるだろうが、ふつうは違う。本当の目的は、その友達と楽しく過ごすことのはずである。
このように、お客の利用動機は「目的」によって大きく変わる。利用動機が違えば当然、選ぶお店も違ってくる。ランチタイムにしか利用してもらえないのは、日常的な利便性しかないとお客が判断しているからである。もっとはっきり言えば、心の豊かさを味わうのにふさわしい価値はない、と見捨てられているに等しい。
もちろん、立地や業種・業態、客層によっても、お客の利用動機は変わる。しかしいずれにしろ、お客をしっかりと引きつけるには、お客のどの利用動機を狙うのかを明確にする必要がある。ターゲットを絞り込むとは、単に客層を指すのではない。その利用の仕方に対応したお店づくりが大切なのである。
フードサービスコンサルタントグループ
チーフコンサルタント 宇井 義行