低価格時代の外食・飲食店 「銀座アスター」質と料理の品格守る
東天紅が、文化と庶民の街上野を本拠地とするなら、銀座アスターは社名どおりに、ハイファッションとビジネスの街銀座がホームグラウンドだ。
昭和元年の創業というから今年で七二年。東天紅よりはるかに老舗のチャイニーズレストランということになる。
「医食同源」「探美求真」「団欒厚生」の三つのキーワード。ヘルシーでおいしい料理を豊かに、楽しく提供するという意味になる。これは中国の食文化の神髄ということだが、銀座アスターの企業理念でもある。
アスターの店はこの考えで満たされている。店に高級感があるので、気軽にラーメン一杯でもという雰囲気にはなく、敷居が高いという印象さえする。
もちろん、一〇〇〇円、二〇〇〇円クラスのランチメニューもあるが、客層はホワイトカラーや男女グルメ客などに集約されるといった感じだ。
本来中国料理というのは、家族や友人、知人など仲間内でにぎやかに食するものだが、アスターでは日本人の気質、性格もあるが、さらにソフィスティケーテッドさが求められるといった雰囲気だ。
街角の中華レストランやラーメン店のように、ざっくばらんに利用するというわけにはいかないのだ。
それはともあれ、これが銀座アスターの店づくり、運営スタイルというのであれば、これも立派な企業哲学であるし、他社との差別化精神だ。
九六年9月期ではレストラン四六店、デリカショップ一九店を展開する。売上高は一六〇億円。ここ数年の業績の伸びはアンダーか横ばい状態で、好材料はない。
「特に話題にすることはありません。店舗の出店も落ち着いておりますし、当面新店を出す計画も上がっておりません。質を落とさず、どう生産性を上げ、収益力を高めていくかが、現在と今後における課題でもあるのです」(銀座アスター食品(株)社長室長中川日出男氏)
銀座アスターの出店と営業戦略はかたくなだ。店舗は新宿店を始め、お茶の水、大森、竹芝店などのように、東天紅同様に六〇〇坪、三〇〇坪と大型店を出店しているが、すべて妥協を許さない高級中国レストランの運営形態だ。
料理は、コース料理で四〇〇〇円で上げることもできるが、昭和52年(一九七七年)から月一回新宿賓館で実施してきている「名菜席」は、フルコースで二万二〇〇〇円~二万五〇〇〇円の高価格料理だ。
もっとも、この料理はグルメ客を対象にしたもので、中国各地の名菜(地域有名料理)を提供する。第二二九回4月15日に行われる「潮州名菜席」(香港でも注目の潮州海鮮料理)、第二三〇回5月21日「北京名菜席」(清朝貴族の美味佳宴」、第二三一回6月17日「福建名菜席」(名菜と初夏の福建料理)という具合だ。
銀座アスターの客層はミドルからアッパークラスが狙いだ。一般サラリーマンやファミリー客は無理しなければ、近寄れない雰囲気があるのは否めない。ある店の支配人がぼやく。
「夏場は生ビールとつまみ類で集客したい考えもあるのですが、会社が許しません。バイキングやビュッフェ形式を導入している店はありますが、個別に食べ放題、飲み放題の販促企画は認めません。売上げを上げるために、いろいろとやりたいことはあるんですが、制約がありますので、店サイドでは自由に手が打てないのです」
銀座アスターはあくまでも“格調”の高さにこだわる。社長の太田芳雄社長は二代目だが、事業家というより“中国食文化”の伝道者、道楽、趣味人といったタイプの人物のようだ。
東天紅と似たような企業スケールにありながら、株式市場への参入はなく、同族経営にとどまっている。
外食ビジネスも全体のパイが膨らまず、競合がし烈化してきている。“優勝劣敗”がビジネスのならいとするなら、シェアは小さくても銀座アスターは質のこだわりと、格調の高さでサバイバルしていくということになる。
◆会社概要
・企業名/銀座アスター食品(株)
・チェーンブランド/銀座アスター、ほか
・創業/昭和元年(一九二六)12月
・会社設立/昭和29年(一九五四年)12月
・本社所在地/東京都品川区西五反田二‐二‐一(Tel03・3492・0671)
・資本金/一億〇五〇〇万円
・代表取締役社長/太田芳雄
・従業員数/約二〇〇〇人(契約社員含む)
・事業内容/中国レストラン、デリカショップ展開
・出店数/レストラン四六店、デリカショップ一九店、ほか(九六年9月期)
・売上高/一六〇億円(九六年9月期)