飲食店成功の知恵(109)繁盛編 接客用語の意味を考える
飲食業には、基本の接客用語というものがある。たとえば、飲食店であれば普通は、お客が入ってきたら「いらっしゃいませ」と言うし、帰るときには「ありがとうございました」と声をかける。料理を運ぶときには、「お待たせいたしました」と言う。
基本用語というだけあって、たいていのお店はこの用語を使っている。まれに自店独自の用語を工夫しているお店もあるが、それはそれで結構なことである。
しかし、接客用語というのは、ただ基本どおりに発声すればいいというものではない。用語は言葉であって、単なる音ではない。接客の基本ということは、お客とのコミュニケーションの基本ということだ。お客に満足してもらい、何としてでも固定客になってもらうためには、この接客用語の意味をしっかりと考えておく必要がある。
ところで、接客用語の中でも特に大切なのが、「ありがとうございました」である。もちろんこれは、お金を支払ってくれるお客に対する感謝の言葉なのだから、飲食店に限ったことでなく、どんな商売でも大切な言葉である。
ところが、最近はこの大事な言葉が抜けてしまっているお店がよくある。アルバイトのものだから、などと経営者は言い訳するが、とんでもない話である。私に言わせれば、アルバイトだから言い忘れてしまったのではない。この用語がどれほど大切な言葉なのか、その意味を徹底的に教えていなかったからそうなるだけのことなのだ。
また、一応はこの用語を使うのだが、どうも気の入らない響きでしかないお店も少なくない。「ありがとう」と言われても、少しもそう言われた感じがしないのだ。経営者は、これもまたアルバイトだから仕方がないと、言い訳するのだろうか。
結局、原因は経営者、ないしはお店の責任者(店長)にある。経営者や店長自身がその大切さを本当に理解していないから、こういう事態を招いてしまうのである。
接客用語の中でも「ありがとうございました」が一番大切だというのは、お金を支払ってもらうからである。しかし、勘違いしてはいけない。単にレジで料金を精算してくれたからという理由で、この言葉をかけるのではないのである。
本当の意味は、「当店を選んで利用して下さってありがとうございました」ということなのだ。
もちろん、料金はいただく。それは当然のことだ。しかし、当然といえるのは実は、その対価に値する商品を提供し、サービスに努めた場合だけなのである。その場合は、売る側と買う側との正当な商取引が成り立つからだ。商品がひどかったり、サービスに手抜きがあったりでは、とてもまともな商売とはいえない。
お客は、どこのお店に入っても、お金を支払う。当然のことだ。だから、お店を選ぶ。どうせお金を使うのなら、最も価値のある使い方をしたいと思うからだ。その結果、当店を選んでくれた。お金うんぬん以前にまず、このことに感謝しなければならないのである。
アルバイトには、「君たちの給料を払って下さるのはお客様なのだよ」という程度の教育でも、まあ仕方がないだろう。しかし、経営者や店長ともなれば別である。これくらいのことは、しつかりと認識しておいてほしいと思う。
「ありがとうございました」に限らず、接客用語にはすべて、このサービス業としての心が不可欠である。心のこもらない用語は、空々しく聞こえるだけだ。そして、どんなに感謝の気持ちを持っていても、それがお客に伝わらなければ、ないのと同じなのである。
(フードサービスコンサルタントグループ チーフコンサルタント 宇井義行)