名古屋版:シリーズ・今年の中部外食(3)フランス料理編
昨今のイタリア料理ブームに押され気味のフランス料理。利益が上がらないためイタリア料理に切り替えるレストランも出てきた。
「国際イベントが少ない中部ではもともとフランス料理の需要は少ない。都心に本格的フランス料理店は数軒あれば十分ってとこ。郊外型にすれば経営は楽になる」と話すのは、名古屋クレストンホテル総料理長の寺島治氏。
「都心の複合ビルインで、居酒屋やラーメン屋さんなどと隣あわせではドラマは生まれっこない。そこへゆくと郊外では独特の演出効果が発揮される」ため、日常を離れた空間でおいしい料理を楽しめるというわけだ。
おまけに家賃は安い。理想の客席数はせいぜい二〇席。あたりまえではない食材に工夫をこらしオリジナリティーのあるメニューを提供し、カジュアルな要素も取り入れれば成功間違いない、そうだ。
一方、レストラン「レトワール・ド・ジェアン」(名古屋市千種区)の料理長、佐伯宏彦氏は「最近、流通機能も向上し食材が東京並みに入手できるようになった。今までは、美濃加茂地方の鴨はほとんど東京へ流れたが、需要が増えた名古屋でも食べられるようになった。私たちの使命は、地元近辺の食材を開発し地元の客に本格フランス料理を広めることにあるのではないか」とあくまでも生粋のフランス料理にこだわる。
今、料理業態に垣根がなくなる傾向にあって、無国籍やパスタ、リゾットなどのイタリア料理へ移行しがち。でもそれはひとつの逃げ道と、佐伯氏は考える。
「基本がないのはだめ。根をしっかり生やし幹を張れば、時代がどう変わろうとびくともしないはず」と時間がたてばまた客は戻ることを断言する。
心を豊かにしてくれるフランス料理。決してグチは似合わない。あくまでも「夢を売る商売だと思っている」寺島氏は、猥雑なことに追われている人生の中でフランス料理を取り巻くシーンこそ「文化」と言う。
車にばかり執着する名古屋の若者が、フランス料理に関心を持ってくれたらと少々悲観的だ。
しかしながら、ここ数年名古屋でもレストランウエディングが流行。佐伯氏は、「グルメ以外でも本格フランス料理に初めてふれるチャンスが広がった。シェフにはこれを逃さずにフランス料理のおいしさを広めてもらいたい」と期待をこめる。