飲食店成功の知恵(114)繁盛編 業種・業態変更の落とし穴(2)
前回は、業種はそのままで業態だけ変更するケースについて考えた。今回は、業種の変更について取り上げようと思うが、実は、業種の変更はともすると業態の変更を伴うことが多い。そして、業種の変更にばかり気が行ってしまって、業態が変わることをあまり考えないで踏み切ってしまうケースが少なくないのである。その落とし穴を中心に、業種変更のポイントを探ってみよう。
ところで業種変更といっても、いくつかのやり方がある。例えば、これまでの普通の居酒屋から、無国籍料理を中心にしたエスニック居酒屋に転身するといったケースから考えてみよう。
この場合、商品の単価は以前とほぼ同じレベルに保つことができる。新業種の材料原価率はあまり高くないから、ポーションコントロールなどで十分調整できる。つまり、価格という意味では、業態は変わっていないことになる。
しかし、業態とは価格の違いだけのことではない。だれに売るのか、つまりターゲットとする客層の絞り込みに大事な意味がある。普通の居酒屋の時代は、サラリーマンを中心とした客層を取り込めばよかったのだが、今度は全く違う若い世代の客層にアピールしなければならない。
では、その客層は商圏内にいったいどれくらいいるのか。また、業種変更したことによる新たな競合店はどれくらいあるのか、ということが問題になってくる。ここを綿密に調査しないで取り組むから失敗を招くことになる。
逆に、業態の決定要素のうちの客層に照準を当てて成功しているケースもある。
例えば、若いサラリーマンや学生が多く、ラーメン店や居酒屋が集中している立地で営業していたラーメン店が、変わった料理とお酒を気軽に楽しめる小皿エスニック料理店に転身するといったケースである。ターゲットはいくらでもいるのだから、価格を周辺の居酒屋のレベルに合わせて特徴をアピールすれば、十分に勝算があるわけだ。
もちろん、すでに何年間か商売をしていて土地勘はあるのだし、地域の金銭感覚によってはもう少し上の客単価を狙うことも可能である。
私鉄沿線にある住宅地の商店街で長年、定食屋をやっていたA氏は、すぐ近所に手ごろな物件が出たのを機会に、和食店に転身した。夫婦でこぎれいな小料理屋風のお店をやるのが夢だったという。ところが、オープンして一年以上もたつのに、業績はさっぱり上がらない。完全な失敗のケースである。
A店は実際、こぎれいな内装で、商品のレベルもそこそこ高い。しかし、売り方に大きな問題があった。看板の和風ステーキなどメーンの料理は五~六品目で、すべて定食スタイルで一五〇〇~二〇〇〇円。しかも、とりあえずビールも一緒に注文しても、ご飯と味噌汁がすぐに出されてしまう。小鉢類が何品かあるものの、それらはサイドオーダーの類で、いわゆる酒の肴としては弱い。つまり、料理とお酒を楽しむお店からはほど遠い内容になっていたのである。
したがって、お客の目的は単なる食事に限られるわけだが、単価が高すぎるため、以前のお客は呼び込めない。そもそもその地域の金銭感覚とかなりのズレがあった。結局、以前の少し上のレベルにまで価格を落として営業しているが、一度失ったお客をすべて取り返すことはできない。
A氏には、業態という視点が全くなかった。価格が変われば客層が変わるのに、その見通しが立っていなかったし、お客の利用動機ということも全く考慮されていない。業種変更においても業態ということがいかに大事か、この事例が教えてくれる。
フードサービスコンサルタントグループ
チーフコンサルタント 宇井 義行