低価格時代の外食・飲食店 カレーハウス「CoCo壱番屋」

1997.09.01 134号 4面

カレーショップ壱番屋(本社=愛知県一宮市)。西暦二〇〇〇年を目標に全国に一〇〇〇店舗体制、株式の店頭公開も開始する。創業二〇年で四〇〇店を突破し、売上高も三〇〇億円(今年5月期)に達する。街中でイエローカラーのファストフード(FF)スタイルのカレーショップをよく見かける。今年7月末現在で、さらに出店数は伸びており、直営一六八店、FC三三二店を数える。カレーショップのビッグチェーン。この企業もまた独走体制を堅持する。立ち向かうライバルは存在しない。カレー市場の創造を目指して堅実な成長をみせている。

カレーメニューは元来がファストフード的な性格を帯びている。ご飯にルー(トッピング)をかければ、これで一丁上がりだ。

マニアックな作り方を別にすれば、調理は簡単で子供にさえもつくることができる。ルーは作り置きしておくこともできる。味覚はスパイシーで食欲がない時でも、カレーなら食べる意欲もわいてくる。

ご飯とトッピングの一体化。おかずは不要だ。忙しい時には気軽に食べられるし、栄養価もあり、健康増進にもいい。

カレーの黄色はターメリック、最近の医療・健康分野で大きく注目されてきているウコンの粉末だ。だから、カレーメニューはヘルシーフード、機能食品でもあるのだ。

それでなくても、すでにカレーは国民食というほどに、日本人の食生活に深く浸透している。好き嫌いの激しい子供たちでもカレーなら好んで食べる。

カレーは専門店でなくても、定食屋やうどん・そばの店でも定番商品として登場してくる。しかし、ハンバーガーや牛丼チェーンのようにFF形態での出店、メニュー提供は少ない。

正確にいえば、壱番屋を除けばビッグチェーンは存在しないということだ。

(株)レストラン京王(本社=東京都府中市)は「カレーショップC&C」のチェーン化を進め、かつては数十店を出店していたが、現在は直営一一店、FC五店の計一六店を展開するにとどまっている。

店舗数はむしろスクラップなどで減少方向にあり、拡大していくパワーはない。老朽化している店舗のリニューアル化で売上げの落ち込みをカバーしていくのが精いっぱいというところだ。

(株)リオ(本社=横浜市)は「カレーハウスリオ」を展開するが、店舗数は直営五店、FC七店の計一二店。C&Cと似たような出店規模だ。FC展開は昭和57年からだが、一五年で七店舗は少ない。

しかし、FC出店の情熱を失っているわけではない。店舗面積一〇坪、カウンター席一二・三席というのが標準的な店の大きさで、月商三〇〇万円。開業資金は加盟金一〇〇万円、保証金三〇万円を含め一二〇〇万円(ロイヤルティーは取らない)。

粗利六二%。メニュー単価は五〇〇~六〇〇円前後で、トッピングのバリエーション、コクのあるルーが売りのカレーチェーンということだ。

「壱番屋さんは大変なチェーン規模です。私どもと比較するわけにはいきませんが、私どもは量的拡大よりもプロの味を提供していく、一店一店着実に利益の上がる店を出していく。いわば“味づくり”で勝負していくという考えです」(カレーハウスリオ代表取締役社長吉川政太郎氏)

壱番屋は昭和53年1月に直営第一号店を出店し、二年後の55年4月からFC展開に乗り出した。今年7月末の出店数は直営一三三店、FC三二六店の計四五九店。

前記の二社もほぼ同じころにFC展開に乗り出したが、チェーン化に加速がつかなかった。壱番屋との出店の差は歴然としている。

壱番屋は平成7年に、本体の「CoCo壱番屋」に加え「低資本・高回転・高収益」を運営コンセプトにした「FSココイチ」のFC出店に乗り出した。

この新タイプのカレーショップは、さらにFF化を進め、客席はカウンター席のみでクイックサービスと省力化を実現している。

店舗面積一五坪、カウンター一五席というのが標準サイズだが、最大の特色はメニューを八品目に絞り込んで生産性を高めているという点にある。

メニューはポークカレー三五〇円、ビーフカレー四五〇円、チーズカレー四五〇円、イカカレー五〇〇円、フライドチキンカレー五〇〇円、コロッケカレー五〇〇円、カツカレー五五〇円、ソーセージカレー五五〇円。これら商品はテークアウトもでき、高回転・高収益に貢献する重要な要素になっている。

このモデル収支(食材コスト四〇%)は月商二〇〇万円の場合で営業利益二〇・二%、三五〇万円で三〇・九%、五〇〇万円で三七・六%。

創業二〇年でトータルの出店数が四五〇店を超える。年間二〇店以上の出店ペース。破竹の勢いのハンバーガーチェーンなどに比べると量的出店とはいえないが、しかし、カレー市場においてはその安定した出店ペースと堅実さが、大きく評価されるのだ。

この出店パワーの秘密はどこにあるのか。新規出店のみならず、既存店の売上げも順調に伸びており、前年を割ることがない。

今年2月、本紙「トップインタビュー」で、宗次徳二社長はこう語っている。

「最初の一〇〇店舗を達成するまでは一一年かかりました。実に遅々たるペースですけど、客の口コミだけでジワジワと店舗を伸ばしてきたんです。途中爆発的なブームがあったわけでもないし、バブルに浮かれて欲を出すこともなく、ただ淡々と自分たちのやり方を忠実に守ってきただけです……」

宗次社長は昭和47年に宅地建物取引業を始め、二年後には名古屋西区で喫茶店を開店させている。これが現在のカレーショップを展開させるベースとなったわけだが、地味だが宗次社長のひたむきな起業家精神、手堅さが日本最大のカレーショップチェーンに発展させたといえるのだ。

この宗次社長の精神は、社是となっている三つのキーワード「ニコニコ」「キビキビ」「ハキハキ」に集約されている。

商業、特に飲食ビジネスを展開するのであれば、この三つのキーワードは必須の事業精神だ。

店は売上げ主義に走れば、店の都合、店の利益にばかりこだわることになり、やがては人が数字に使われることになる。店の実績、数字は客が納得し満足した結果に表れてくる。

壱番屋の社是はこのことを意味している。客単価一〇〇〇円にもならないビジネスに切り札はない。基本に忠実に、小さなことを積み重ねて日々新たに、目標に向かって突き進むしかない。宗次社長の本意はここにあるのだ。

地味、手堅いといっても、決して精神主義に陥っているわけではない。店づくりからマネージメントまで、ハード、ソフトともに組織がシステム的に機能しているのだ。

まず、チェーンビジネスを展開しているだけに、本部機能は有機的で、FC店に対しては強力なバックアップ体制を確立している。

チェーンのコントロールタワーである中枢機能は、「店舗運営本部」「店舗企画本部」「管理本部」「商品本部」の四つの本部で構成しており、新規店舗の出店から既存店のマネージメントまで、一体化して機能している。

この概要は次の通りだ。

●店舗運営本部=運営本部の下に全国に一一ヵ所の拠点(北海道、東北、埼玉、首都圏、東海、京都、岡山、福岡の八営業所、千葉、北陸、四国の三出張所)を展開し、本部と各店舗間の物流、情報交換をリアルタイムで行っている。

拠点づくりについては一〇〇〇店舗体制に備えて、新たに静岡、大阪、兵庫、広島、鹿児島と具体化していく計画にある。

拠点での重要な役割にスーパーバイザー(SV)機能がある。SVはFC加盟店を継続的に経営指導していくために、FCシステムにおいては不可欠な人的パワーだ。

もう一つ、店舗運営本部の大きな役割に、新規FC出店による立地の選定やFC契約更改による審査がある。宗次社長は飲食チェーンビジネスは“立地産業”と言いきる。

だから、壱番屋の場所選びは、人、車の交通量を始め周辺の人口動態、アクセス、将来的動向の予測と徹底しており、妥協を許さない。かつては自らも不動産ビジネスを開業していたので、物件、立地の選択についてはよりシビアであるのだ。

●商品本部=カレーソースを作るセントラルキッチンが大きな柱になるが、材料投入から商品の冷凍保管まで、一貫したシステムをとっている。

現在は四五〇店舗をカバーするCK能力だが、二〇〇〇年の一〇〇〇店舗体制に備えて、北関東、九州地区にも新たなCKを設置する。

商品のデリバリーは食材ほか、すべての店舗用品を含めて、自社の配送センターから各店舗へ送り出される。店舗はPOSレジで本部の大型コンピュータと結ばれており、本部のホストコンピュータは全店の売上げをリアルタイムで把握している。

このため、店舗での商品在庫も瞬時にして分かる。商品の欠品、また不良在庫を抱えることもない。常に新鮮な食材が適正にストックされる状態にある。

●店舗企画本部=店舗の設計から保守メンテナンスまでカバー。生産性の高い、集客力を発揮するハード作りの最前線部門だ。

カレーハウス壱番屋の標準店舗は、小型サイズで店舗面積一五坪、客席数二〇席。この開業資金はFC加盟金二〇万円、保証金一〇〇万円、内装工事費一〇〇〇万円、看板・厨房設備・什器・物件取得費などを含めて二四〇〇万円前後。

収支モデルは月商三五〇万円の場合で営業利益一四・三%、月商四五〇万円で営業利益一九・三%(食材コストは各三九%)。

工期は設計から開業まで三〇~四〇日前後。初期投資は二~四年内に回収できるシステムを確立している。

●管理本部=総務と経理部門のバックアップ体制のもと、本部(ホストコンピュータ)と加盟店(POSレジ)を結ぶ物流と情報システムを構築し、その流れをサポートすることにある。

チェーン店でのPOS導入は平成5年6月に完了したが、全店の売上げ管理や食材などの受発注に大きなパワーを発揮している。

ヒューマンな面とハイテックシステムとの一体化。トータル的にみれば壱番屋の戦略、組織運営はこうとらえることができる。

二〇〇〇年には株式の上場も始まる。宗次社長の頭の中には三万人の商圏人口で一店舗の出店、全国に四〇〇〇店舗は展開できるとの計算もある。

資本が集まれば、一〇〇〇店どころか、二〇〇〇店、三〇〇〇店、一〇〇〇億円企業も可能だ。地味で手堅く派手さはないが、“北陸人”特有の粘りで目標を達成する。

壱番屋宗次社長はまだ若い(昭和23年石川県生まれ)。ワンマン体制が続いたとしても、まだまだ先は長い。消費者ニーズを把握し、戦略を誤らなければ、カレー版のマクドナルドも可能ということだ。

◇会社概要

・企業名/(株)壱番屋

・チェーンブランド/「カレーハウスCoCo壱番屋」、カレーショップ「FSココイチ」

・設立/昭和57年7月

・創業/昭和53年1月

・本社所在地/愛知県一宮市丹陽町三ツ井一五八五-一(電話0586・76・7545)

・資本金/一〇〇〇万円

・代表取締役社長/宗次徳二

・従業員数/正社員一三〇人、パート七〇人

・事業内容/カレーショップチェーン展開、宅地建物取引、建築、店舗内装、厨房機器販売、広告代理店、車両整備、清掃管理業、ほか

・決算期/5月

・出店数/CoCo壱番屋四一〇店、FSココイチ四一店、計四五一店

・売上高/三〇二億円(前年比一二〇%)

購読プランはこちら

非会員の方はこちら

続きを読む

会員の方はこちら