地酒と料理のおいしい店 「魚山亭 新寮」熟年の憩いの場
JR渋谷駅から延びる宮益坂の中ほど、ビルの三階にある「魚山亭」。引き戸を開け店内に足を踏み入れると、大胆に生け込まれた木々の枝が目に入る。枝振り豊かな栗の木、ドウダンツツジ、ナツハゼが季節を変えて登場する。
「自然を生けることで心が和んでくだされば」という福迫淳一店長。故郷の宮崎で浸っていた自然に思いをはせ、山の木々や野の草花のアレンジを楽しむ。
カウンターには、自然をほうふつとさせる山の幸、海の幸がかごに盛られ、テーブルのはし置きにネコヤナギ、シシトウ、ミョウガなどをさりげなく使う心遣いが憎い。
若者たちであふれかえる渋谷には珍しく、ゆったりとくつろげる店として、客の大半が三〇~五〇代の男性で占められるようになった。
「自分が好きな酒、食べたい料理を提供したいからやっている店」という自然体の店主だが、店の雰囲気を大切にし、フィーリングが合う客とはつい杯を酌み交わしてしまうほど。また、逆に雰囲気を壊す客に対しては、ハッキリとその旨を伝える。
「酒の場では楽しまなければいけません」と言いつつ、ごく自然なかたちで異業種交流のセッティングも忘れない。
カウンター近くの冷蔵庫には、全国津々浦々の地酒が並べられているが、特に地酒のメニューは置いてないという。
「注文がなければ、客の顔を見てふさわしい酒をすすめます」
まず口当たりのよいさらりとした甘い酒、「瓢月」「黒龍」「ゆすら」「雄町」などに始まり、肴には丹精込めて作られた自家製おぼろ豆腐、よく冷えた新鮮なトマトを切ったもの、季節の刺し身が出される。
「刺し身にワインの組み合わせが好まれているようですが、基本的に日本料理には日本酒が合う。どちらかといえばうま口、コクのある酒をすすめたいですね」と言いつつ、ぎんぎんに凍らせた青竹筒のとっくりを差し出す。
手作り感ある地酒、サービスには素朴な手作り料理が合う。調査捕鯨の肉を使った「くじらの竜田揚」(一二〇〇円)、自家製梅干しをたたきシソで巻き大豆油で揚げた「いわしの香り揚げ」(八五〇円)も手作り感がじーんと伝わる人気メニューだ。
さらに「これを食べなきゃ帰さない」という店主自慢の「冷や汁」(七〇〇円)は、麦ご飯に冷や汁をかけたシンプルメニューだが、最後の締めにほとんどの客が賞味して帰る。店主と地酒を友にくつろげる店だ。
◆「魚山亭」新寮(東京都渋谷区渋谷二-一九-二〇、岡ビル3F、電話03・3400・6348)=営業時間午後5時~午前0時ごろ、予算八〇〇〇円