飲食店成功の知恵(121)業種編 喫茶店

1997.11.03 139号 18面

◆居場所提供に発想転換

喫茶店受難の時代といわれて久しい。ほとんど衰退業種の代表のようにいわれているが、私にいわせればそんなことはない。

喫茶店が不振になったのは、バブルによって家賃や保証金が高騰して採算がとれなくなったからで、喫茶店自体のニーズがなくなったわけではないのである。実際、バブル時に撤退を余儀なくされたのは都市の中心部で、都市部でも中心を離れた立地では、いまでも十分に成立している。

要するに、喫茶店が不振に陥ったのは、客単価が低すぎたからなのである。コーヒー一杯四〇〇円前後の価格では、高い家賃は払えない。保証金が高ければ損益分岐点も高くなるから、とても持ちこたえられないという構図だった。しかし、家賃や保証金が適正な範囲内であれば、喫茶店はいまでも、飲食業の中でも最も利益率の高いビジネスであり続けているのだ。

しかし、利益は「率」だけで計れるものではない。やはり適正な「額」を稼げなければ、ビジネスとしてのうまみはないというべきだろう。最も利益率の高いビジネスでありながら、大半の喫茶店がそのメリットを受けていないのは、売上高が頭打ちになってしまっているからにほかならない。

いまやコーヒーは家庭でも必需品になっている時代だが、豆の価格がいかに低いかはだれでも知っている。あまり宣伝されていないことだが、コーヒーは物価の優等生だったのだ。ほかの諸物価に比べて、不当に安く抑えられてきたといっていいほどなのだ。

しかしいまどき、一時間以上も時間をつぶせて、ドリンクと水とおしぼりのサービスがあって、しかも快適な場所で、四〇〇円という価格が果たして適正といえるかどうか。喫茶店再生のポイントはここにある。単に値上げしたのではお客は納得しないが、価格に見合った付加価値があれば利用してもらえるのだ。

私は、その付加価値を「場所提供」に求めるべきだと考えている。想定する利用動機によって手法はいろいろ変わってくるが、要は「居心地のいい空間」を提供するお店になることだ。つまり、従来の「コーヒー店」から「居場所提供業」への発想の転換である。そしてドリンクはあくまで、付加価値のひとつでいい。

◆多様な利用動機を吸収

ところで、客単価アップということでは、従来からフードメニューの導入が盛んに行われてきているが、私は反対の意見である。なぜなら、そもそも喫茶店とレストランとでは利益構造が全く違うからだ。

喫茶店は単価は低いが利益率は抜群に高い。それに対してレストランは、単価は高くなるものの原価率と人件費がかさむため、利益率は低い。したがって、それぞれの利益を出すやり方は違って当然なのだ。

たしかに喫茶店のレストラン化は、売上高は押し上げる。しかし実質的にみれば、原価をアップさせるばかりで利益の確保にはつながりにくいのである。また、コーヒーの品質にこだわっているお店の場合、フードメニューのにおいなどがマイナスになるということも指摘しておきたい。

喫茶店はあくまで喫茶店でいいのである。なぜなら、喫茶店はそのままで実に多様な利用動機を吸収できるからだ。暇つぶし、待ち合わせ、息抜き、商談、デートと、ざっと挙げてもこれだけある。そして、これらの来店動機は一日に何度も形を変えて発生する可能性がある。だから、喫茶店は商圏が狭くても成り立つのである。

また、利用動機のほとんどがお店に対する目的意識を伴っているから、立地を選ばないというメリットもある。つまり実は、コンセプトによって、家賃や保証金の負担を軽くしやすい業種でもあるわけだ。

(フードサービスコンサルタントグループ チーフコンサルタント 宇井義行)

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