高度成長する惣菜・デリ 中食市場にらむ外食企業
二七兆円の外食産業をリードする大手ファミリーレストランは、80年代後半からの地価高騰、人手不足、人件費の高騰という厳しい経営環境にもかかわらず、二ケタ前後の成長を続けてきたが、バブル崩壊を機に、かなりの苦戦を強いられている。
最大手の「すかいらーく」の決算状況からもわかるように、平成4年度上半期売上高は六七八億九四〇〇万円(前年比五・五%増)、経常利益五一億二八〇〇万円(前年比二二・三%減)、通期計画でも売上高一四〇〇億円(前年比三・二%増)、経常利益一一五億円(前年比一三・五%減)と、利益率の悪化を招いている。出店数についても平成3年度の七三店舗に対し4年度は四三店舗(予定)とその慎重さが窺える。
その背景には消費者の食行動の変化が大きく影響していることは言うまでもない。「多様化、高度化、個性化」といった普遍的ニーズの流れの中で、団塊の世代にとって七〇年代に出現したファミリーレストランは“ハレ(非日常)の場”として常に新鮮さを醸し出していたが、二〇年経ったいま、彼らの団塊ジュニアにとっては単に便利なだけのコンビニエンスレストラン的な位置付けになり、いわば“ケ(日常)の場”に過ぎなくなっている。しかし、有職主婦の増加や二四時間化社会の方向性が留まることがない中で、内食でもなく外食でもない、その中間に位置する中食マーケットが形成され急拡大しているわけである。
二一世紀に向けて、大手外食企業はこの巨大なニーズに対し、いやがうえにも企業体質の改善を迫られるであろう。特に、特化したメニュー、サービスを持たないファミリーレストラン、ファーストフードといった業態は、惣菜・デリをメインマーチャンダイジングとするCVS等と真向から対戦することとなろう。
すかいらーくはこの中食マーケットにいち早く対応した外食企業である。同社は二一世紀に向けての長期経営計画「CRC21計画」の基本コンセプトの中に、この中食マーケットへの対応戦略を打ち出している。二〇〇一年のグループ総売上高一兆円のうち、テーブルサービスのレストラン事業が四〇%、残りの六〇%はワンウエイサービスのファーストフードあるいはテイクアウトといったニューコンセプト業態によって占められている。
そこで一九八八年、㈱ボンサンテを設立し、ニューデリカ食品『ボンサンテ』ブランドを開発、会員制宅配事業の「フレッシュすかいらーく」によって無店舗販売という脱テーブルサービスに着手した。
次いで同年三月にニューデリカショップ「オープンセサミ」一号店を東京・原宿に出店することとなった。世帯普及率六〇%と言われる電子レンジの浸透に着目し、電子レンジ仕様の惣菜・デリを開発したのである。
同店のコンセプトはビジネス街立地のフードコンビニエンスである。特に、11時30~13時30のランチタイムには日商の八〇~九〇%を売上げる超繁盛ぶりだ。よって、客の回転率を上げることもあって、店内調理は行わず㈱ボンサンテの川崎工場で一括生産し、一日二便体制で納入されている。同店のターゲットはOL、サラリーマン。標準店で一〇~一三坪(基本的に客席は無)。商圏は半径二〇〇メートル、二万人と設定。営業時間は午前八時から午後八時まで。平均客単価は五〇〇円前後。販売員二~三名でオペレーションしている。八八年の一号店以来、ビジネス街を中心に多店舗化を図り現在五八店舗有している。
店内は対面販売とセルフ方式を組み合わせ、客の流れに回遊性を持たせているのが特徴。まず店に入ると、箸、フォーク、ナプキン、調味料等を備えたテーブルがあり、多段式オープンショーケースに陳列されているミニそうざいをピックアップさせる。そして正面カウンターでは対面方式で週替わりの各種弁当をオーダーする。その後、飲料、デザートなどをチョイスして、レジで精算するという図式を作っている。
メニューの特徴は何といっても電子レンジ加熱可能な「セサミパレット」。三種類の料理をパレットに盛り合わせた弁当のことである。和・洋・中華惣菜、米飯類、パスタ類等を週替わりでメニュー構成。また、季節メニューにも注力しており、今秋は「松茸御飯」(七〇〇円)、「栗御飯」(六〇〇円)、「きのこ御飯」(五三〇円)が売りである。
また、和・洋・中華惣菜を小ポーションパッケージした「セサミチョイス」も好評だ。冷菜と温菜があり、温菜は店内の電子レンジで加熱して提供。最近は「里いも煮」(一六〇円)、「きんぴらごぼう」(一二〇円)などの和惣菜の動きがよい。
このように外食最大手のすかいらーくは、二一世紀一〇兆円市場とささやかれる中食マーケットに向けて、本格的な業態戦略を始動させた。大手に限らず、中小飲食店においても、地域のCVSの台頭を横目で睨みつつ、様々な中食事業に着手し始めている。今後の外食市場の新たな活路はまさにこの分野から生まれてくるに違いない。