注目の外食ベンチャー うなぎ・とんかつ「備長」 名物「ひまつぶし」を手軽に
うなぎ・とんかつ「備長」は、名古屋名物「ひつまぶし」を売り物とするロードサイド専門店。看板商品の訴求とウナギ専門店の近代化(システム化)に成功し、知名度と売上げを急伸している。
ひつまぶしは、香ばしく焼いたウナギの短冊と刻み海苔をご飯のうえにのせ、おひつに詰めた名古屋独特のウナギ料理。三膳に分けて三種類の味を楽しむ(別掲)。かねての名物料理も、最近は度重なるグルメ報道により知名度をジワジワと高めている。
このひつまぶしに目をつけたのが備長オーナーの鈴木博さん。ウナギ料理の老舗「西本」で一二年間修業した職人である。「老舗の専門力とFRのシステム力を融合したニュースタイルの専門店をつくりたい」として、六年前にオープンした。
専門色が濃すぎたためか当初は思うように客が入らなかったが、三年前、ひつまぶしを看板商品にカジュアル路線に刷新したところ、これが大ヒット。売上げは倍増した。
現在の営業時間はランチタイム、ディナータイム合わせてわずか六時間三〇分。それで月商は一四〇〇~二二〇〇万円(九四席)にも達する。しかも、伸び率でもここ一年間、対前年同月比一一〇%を持続しているというからすごい。
「予約が殺到して対応できないのが現状。申し訳ないのですが一日四件(昼二・夜二)に限らせていただいてます」とうれしい悲鳴。
当然、この繁盛は修業で鍛えた専門力あってのこと。ひつまぶしという看板商品を老舗のレベルで、しかもシステム化により手軽に提供できるからこそ支持されたのだ。なにより、漠然とした“うなぎ屋”でなく一歩踏み込んだ“ひつまぶし屋”に特化したことが最大の成功要因といえる。
その証拠に、売上げの七〇%はひつまぶし関連メニューで占めている現状である。また、ひつまぶしという料理が一般にはまだ珍しく、グループ客にマッチするメニュー特性(皆で取り分ける大皿料理)にあることも重要なポイントだ。
備長の集客戦略で特筆すべきは、二年前から行っているチラシ配布にある。年二回、支払い金半額分の無料チケットを返還するキャンペーンを、三日間にわたって実施するものだ。配布するチラシ枚数は七万枚。来店客数は三日間で一五〇〇人、売上げは三五〇万円、ひつまぶしの売上げ構成比は九〇%にも達する。
「無料チケットのリピート率は八〇%以上。だから実質の値引率は約二〇%。それでもキャンペーン期間中の客単価は跳ね上がるし、売れ筋商品を絞り込んで仕込めるから、実質の値引率はそれよりも下がる」
「また従業員がフル回転で働くから、現場の歯車を引き締める効果もでますね」という効果をもたらしているという。
こうした繁盛について鈴木さんは、振り返る。
「飲食がシステム化一辺倒になるなか、逆行して専門店志向に向かったのがよかった。システムはまねできても専門力はまねできない。私が培ったウナギの見立て、焼き方があるからこそ、備長のいまのシステムが生きているのだと思います。一二年間の修業経験は本当に貴重な財産ですね」
SMや飲食店はシステム化により、ウナギを安売りする一方にある。ウナギ屋も減少の道をたどっている。
それについては「手抜きのウナギが増えるのは残念。でも、そうなれば本当のおいしさを提供する店が引き立つ。備長のブランド力を訴求する好機でもある」という。
独立から六年。いまや名古屋ウナギの御三家、「蓬莱軒」「いば昇」「西本」らの味と比較されるほどに周囲の評価を高めている。
後に続く職人づくりが困難であるため、いまのところ多店舗の予定はない。「多店舗化よりも、超繁盛店一店舗で従業員の潤いを優先する」。
近代化を志向しても拡大策には走らず、品質訴求へ向かうあたりに職人気質が垣間見える。それでもいつかは東京に出店したいと考えている。今後は後進育成が鈴木さんの課題となりそうだ。
鈴木博代表取締役 昭和34年、愛知県刈谷市出身、三八歳。中学時、エリートの兄に勝ちたい一心と、商売人の叔父の影響を受けて独立商売人を志す。
高校時、飲食店業界に入ろうと決意。大学時代、FR、スナック、居酒屋など数々の飲食店でアルバイトし飲食店の現場を勉強。卒業後、システム以前に専門技術の必要性を感じ、名古屋ウナギの老舗「西本」で一二年間修業。平成4年、専門店とシステムの融合を目指し独立。ロードサイド型のウナギ専門店「備長」をオープンする。
たまの休日は外食で家族サービスをするも、探求心が先走り見学がてら話題の店に連れていってしまう、研究熱心な若手経営者である。
◆(株)備長/愛知県丹羽郡大口町下小口五-一七六-一、電話0587・96・0002/ストアブランド=うなぎ・とんかつ「備長」/開業=平成4年11月/初期投資=三億円/形態・坪数・席数=ロードサイド・一〇〇坪(敷地三八〇坪)・九二席/営業時間=午前11時30分~午後2時30分、5時~8時30分、月曜定休/客単価=二二〇〇円/一日来店客数=一五〇~四五〇人(夏場二五〇~五〇〇人)/年商=一億八〇〇〇万円/月商=一四〇〇~二二〇〇万円/客層=家族、接待(男女比は五対五)/原価率=三〇%前後/従業員数=社員三人、パート三〇人(平日一二人、週末一五人)