飲食店成功の知恵(9)開店編 赤字出さぬ大入袋の出し方

1992.11.02 15号 7面

楽して報奨をもらう矛盾

飲食業には昔から、大入り袋がつきものである。目標売上げを達成したら、赤地に「大入り」と書かれた袋が全従業員に手渡される。私なども若い頃、レストランで働いていた時によくもらったものだ。金額は一〇〇円玉一枚と、それ自体は大したものではない。しかし、その日一日、コマネズミのように働いた疲労感がスーッと抜けていくような、他愛のない嬉しさを感じたことをよく覚えている。人間必ずしも、金額の多少だけで動くものではない。大入り袋は、そのへんの心理を実にうまく突いた報奨制度だと思う。

だから、いまも多くのお店で実施している。が、このような従業員の精神面での効用はいいとして、マイナス面を考慮に入れていないケースが目につく。

例えば、最も多いパターンは、一日の売上げ目標達成に対する報奨である。最近は一カ月単位で出すケースも増えてきてはいるが、概ねは一日売上げで決めている。昔からの慣例だからと、慢然と実施しているにすぎない例が多い。

しかし、よく考えてみると、このような形での大入り袋の支給には、大きな問題点がある。

第一に、昔と違っていまは、飲食店の一日売上げの波が大きい。今日はすごくよくても明日はガタッと落ちたりする。そして結局、一カ月単位で見てみると、日商は低い水準に平均化してしまう可能性が高い。いま、連日の繁盛を持続するのは想像以上に大変なことなのだ。つまり、その日の売上げがよかったからと、むやみに支給しては、全体としてはアシを出してしまうことになりかねない。いまは金額も一律一〇〇〇円などと高額になっているから、バカにならないのである。

第二に、本当に報奨の意味があるのかどうか、という点である。というのも、昔は売れる日も、そうでない日も、ほぼ同じような人員で対処していたから、売れるとなれば目が回るほどの忙しさを従業員は要求された。ところがいまは違う。売れる日はあらかじめ想定できるから、人員を増やすようにローテーションを組んでいるのが普通だ。つまり、働く人は楽をしていながら「忙しさ」への報奨を受け取る、という矛盾が生じているのである。

繰り返すが、大入り袋とはあくまで、皆が一生懸命働いたことによって売上げ目標をクリアした。そのことに対するねぎらい、お礼なのである。そのことをいま、もっと真剣に考え直してみる必要がある、と私は言いたいのだ。お祝いの意味もある、というなら、本当に祝うべきほどの利益が上がったのかどうか、そこをないがしろにしてはいけない。

私は、一日単位での支給には反対の立場をとっている。理由はすでに述べた。支給するなら、せめて一カ月単位にすべきである。しかしそれでも、例えばたまたまその月、近所で工事などがあってその関係者の分だけ売上げが伸びた、などということがある。年間でならしてしまえば喜んでなどいられないわけだが、支給回数が少なくなるからまあいいか、などといった甘い考え方は禁物である。ことおカネに関してはシビアな感覚を持たなければ、成功はおぼつかない。

業績に応じて金券の現金化 さて、一カ月単位で支給する場合だが、私は現金でなく金券の形で手渡すことをお推めする。そして、その翌月から二カ月、月商が対前年比目標をクリアした時に限って、現金化してあげる方法である。ちょっと厳しいように感じるかもしれないが、こうすることでかえって従業員も、それなりに売上げアップ策をまじめに考えるようになるものなのだ。

フードサービスコンサルタントグループ チーフコンサルタント 宇井 義行

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