榊真一郎のトレンドピックアップ:“パニーニ”が第2のピザに

1998.05.18 152号 12面

行き詰まり感のある洋食の世界で唯一、大衆商品としてブレークしはじめているのが「ピザ」。しかもおいしいピザを焼くために生まれてきた店で、おいしいピザを焼くために育てられた人が作ったピザが売れている。ということは、ピザがブームだからといっても、それに乗ることができるお店は限られている、ということです。かといってイタリアンB級グルメブームに乗り遅れるのは業腹だし、というわけなのでしょうが、最近、とある商品がしきりに取り上げられています。「パニーニ」。聞き慣れない料理名ですが、正体はイタリア風サンドイッチです。

色白のチョッとフカフカのイタリアパンに、オリーブオイルとバジリコペーストを混ぜたスプレッドを塗って、生ハムとかスモークサーモンを挟み(これだけだとただのサンドイッチなのですが)、巨大なホットサンドイッチメーカーみたいなグリドルで挟んで、圧力を掛けながらプレスしていく。

すると表面サクサクカリカリ、中は熱々でチョッとトロトロっていう感じのパニーニの出来上がり、となります。

お手軽ピザが特別な器具がなくともできてしまう、ということでイタリアンレストランのランチタイムに採用されはじめたり、専門店ができたりと急速に定着しはじめています。例えば渋谷の「カフェ・マディ」って店なんて、この商品のためのオープンキッチンまでつくって本気の姿勢で頑張っています。

手軽に導入できる、専門料理のような感じがする、テークアウトもOK、と結構、ヒット商品になる要素を備えているような気がするのですが、これがピザを超える商品になれるのか、というとチョッと疑問を感じたりします。

このいわれなき不安の理由は、何で日本人ってピザが好きかを考えればわかります。それも最上級のピザに限ってのことですが。そこで「サヴォイ」というピッツェリアにご登場願うことになります。

ピッツェリアで一番最初に何を食べればいいかといえば断然「マルゲリータ」。トマトソースとチーズだけのシンプルなヤツですが、そば屋でざるそば頼めば実力がわかるように、ピザ屋でマルゲリータは常識なのです。

待つことしばしで、出てきたピザを見て何がビックリするって「シズル感」があるんです、これが。「音が見える」と言えばいいんでしょうか。ソースがグツグツ、沸騰しているんですね。じか火を受けてボコボコ、表面が盛り上がった極薄の台を持ち上げると思った以上の熱さが手から伝わって、口の中に入れると舌に触れる前からこれまた熱い。

やけどしないように注意しながらかみ下してどんな感じかといえば、スープ。トマト味のオニオングランタンスープ、みたいな感じかな。何しろみずみずしくて、思いっきりフレッシュなミネストローネにチーズをたっぷりかけて食べている感じなのです。

鍋焼きうどんの豪快さと、ざるそばの潔さが一度に楽しめるお値打ち感というか、懐かしさが多分、おいしいマルゲリータのだいご味。日本人は世界で一、二を争う汁そば好きだから、その感性にあっている。だから日本人はピザがドンドン好きになる。本物のピザのことが好きで好きで、仕方なくなる。日本人のDNAにすり込み済みの味なのですから。

残念ながらパニーニにはこのジューシーさがない。付けだれを忘れたざるそばを、食べる気にならないでしょう。だから恐らくピザの一人勝ちかな、って感じがします。平成の鍋焼きうどん・平成のざるそば。それがピザ・マルゲリータなのです。

((株)OGMコンサルティング常務取締役)

◆気になる今日のショップデータ◆「カフェ・マディ」=渋谷区神南一-八-九、電話03・5456・7533、「サヴォイ」=目黒区上目黒二-七-一〇、電話03・3714・5160

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