業界人の人生劇場:早野商事・波奈グループ代表 早野友宏氏(下)

1998.06.01 153号 11面

楽しく安心できて明朗会計

地域ドミナント戦略で年商五四億円の規模に成長した早野商事には、学ぶべきパワフルさが多い。

――外食業界も不況の風にさらされていますが。

単刀直入に言って、はやらない店はどこかおかしいのですよ。もちろん、この不景気な御時世、お客様は簡単にはお金を出しません。けれども、出してもそれだけの見返りがあるなと思われた店は、お客様にいつも選んでいただける、そう、確信していますよ。

私が悔しい思いをしながら、それでも「お客様がおいしく食べて満足して帰れる店」づくりに徹して来たことは、間違っていなかった。不況下だからこそ、真にお客様本位の店か否かが、レリーフのように浮かび上がるのでしょう。

――客単価低下などの心配は。

ありません。若干の低下は避けられないでしょうが、お客様でいつも賑わしていただいている店は、売上げ減とかそういった、数字上のことが及ぼす影響は、あくまで、一過性のものととらえています。

私は常に、「カウンターはステージ」と考え、お客様に満足のいく店づくりで、地域一番店を目指して来ました。例えば、一人で来店されたお客様には、必ず、カウンター越しにお声をかけさせていただく。面白く、楽しくそして、明朗会計で安心して楽しめる店にしよう。私はこうして、今の規模に早野商事を築き上げて来た。

不況なんて、修業時代の辛苦に比べれば、何てことないですよ。その証拠に、今まで、赤字決算に陥ったことや店の撤退は一軒もありません。

――すしをはじめとする他業種展開の意味は。

社員の適材適所を実現するためです。すしの次にどうしてもやりたかったのは、海鮮です。そうこうして、手を広げていくうちに、「これならやれるな、ニーズがあるな」と思われる業種が出てくる。片や、社内でもそちらの業種に向いているんじゃないか、と思われる人材がいる。これで、決まりですよ。

私は、何をやるにも、ある程度飽和市場気味といわれている外食産業で成功するには、他の後塵を拝すなと、自分に言い聞かせ続けて来ました。海鮮しかり、鶏料理しかり。多方面な業種展開は、会社の空気の通り抜けを良くし、会社に柔軟性を持たせることができるのです。会社の「動脈硬化」予防には、最適な経営形態だと思うのです。

――「ハミータ・コーポレーション」の設立は、大きな転機をもたらしそうですね。

「ハミータ」も、昭和57年にパイロット店を市原市に出してから、61年初頭からフランチャイズ(FC)化を計画。5月にはFC一号店を成田へ出すことができ、その後、順調に加盟店を伸ばして来たところへの、今回の吉野家ディー・アンド・シーさんとの合弁話です。

最初は、正直言って、二の足を踏みました。私は、基本的に大幅で急激な業績拡大は足元をすくう、と考えています。吉野家ディー・アンド・シーさんとの合弁事業。それは、だれだってうまみを見い出しますよ。この話には。ゆっくり、焦らず進めようと思いましたね。

その間、先方さんの役員の方々が、当社の全店舗を視察なさった。それで、ぜひ一緒にやらないかといわれました。これは、早野商事がやって来たことが、業界人にも大いに認められたという点で、画期的なことです。先方は牛丼を主体としたノウハウを持ち、こちらは、長年培ってきた生鮮に始まるノウハウを持っている。ここに、互いの利益が合致したわけです。

――今後が、ますます楽しみですね。

思うに、飲食店経営者は「直情型」が適していますね。何か、ミスがあれば、すぐその場で注意する。でなければ、一人のミスはどんどんとその店全体に「伝染」して行ってしまうものなのですよ。

もちろん、注意するといっても、理をわきまえたやり方でないと、相手も大人なわけだし、後腐れが残る。私の場合、幸運にも、逆恨みを買って、バタフライナイフで襲われかかったこともないですし。

――一番楽しい時は。

私は、現場にいる時が楽しいんですよ。暇があれば、店へ出向き、何かすることないかって、うろつくんですね。鍋、皿の類を洗ったり、結構、気が落ち着きます。材料の仕入れ、これも、できるだけ、自分でやります。銚子まで出向くこともあります。

しつこいようですが、「お客様がおいしく食べて満足して帰れる店」に徹する。これしか、私には勝算はない。あとは、やる気と気配り、そして、運。私がここまで来ることができたのは、館山の六坪の「波奈ずし」の時代から持ち続けて来た、お客様本位の気持ちが運を呼んだんだ、と思ってます。

早野商事の経営する店は、どこも店員の接客態度が行き届いており、料理も値段相応。確かに、帰り際、心地よく門を出ることのできる店だった。

(聞き手・洛遥)

◆昭和40年館山市に六坪のスペースで「波奈ずし」を開店。「お客様が、その店で満足して帰られたかどうかは、帰り際の扉の閉め方でわかる」と言う早野氏。高校卒業当初は、シナリオライターを目指していたという氏の才能は、今でも時々デッサンの筆をとったり、メニュー撮影をプロ並の腕でこなしてしまう、多才振りに受け継がれている。また、氏が今凝っているのは、アユ釣り。清流を求めて、休日には栃木県にまで足を伸ばす。カッとなりやすいが冷めるのも早いという、後腐れしない性格は、社員に大いに好かれるところであろう。館山市出身、五六歳。

◆早野商事(株)/昭和53年6月、資本金二五〇万円(57年一〇〇〇万円へ増資)で千葉市要町に設立。ルーツは40年、館山市に六坪のスペースで開店した「波奈ずし」。51年、新鮮な海の幸をふんだんに使った日本料理とすしが売り物の「活味波奈(いきあじはな)」を千葉市内に開店。以降、着実に業務を拡張。現在従業員七〇〇人、年商五四億円の規模に成長した。同社はテークアウトすし店「太助ずし」、回転ずし「ハミータ」(FC)、とんかつ「かつ波奈」、とり料理専門店「とり屋一億」も同時に手掛け、多方面な業種展開で知られる。昨年、5月には「ハミータ」と(株)吉野家ディー・アンド・シーとの合弁で、(株)「ハミータ・コーポレーション」を設立し、回転ずし部門が独立。今後、ますますの成長が期待される。

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