注目の外食ベンチャー 居酒屋FF「赤垣屋」 わずか10坪で月商1300万円

1998.06.01 153号 16面

「赤垣屋」は創業三年目の大正14年、全国初の立ち飲み屋を大阪の新世界に開業した。以来、「大衆の心の機微をくみとる」という理念のもと、常に時代に合ったスタイルで、激しい時代の変化に対応し、現在三業態・五店舗の超繁盛店を擁する居酒屋業界の風雲児となっている。

店舗面積一〇坪で月商一三〇〇万円の店が大阪にある。しかもそれが、今から二〇年以上前に、座って飲める大衆居酒屋の台頭でほとんど絶滅したといわれる立ち飲み屋の世界でのこと。友人から初めてその話を聞いた時、一〇坪で年商一三〇〇万円の間違いだろうと正直思った。

ところが調べていくうちに、一日一三時間営業で二〇回転とか、三〇年連続売上げ前年比クリアとか、ますます信じられないデータが入ってきた。それが今回取材した「お立呑処 赤垣屋」である。早速、赤垣屋の尾崎正紀社長にアポイントをつけ、GW明けのある日、大阪に出向いた。

訪問の前日に大阪に入った酒好きの筆者は、地元の友人の案内で梅田地下街にある「赤垣屋梅田店」を訪れた。夕方6時、通勤帰りのサラリーマンが、カウンターで飲んでいる人の後ろに二重三重の人垣を作って待っている。

すごい! これは明治神宮の初もうで状態だ。それなのに待っているお客さんに殺気だった雰囲気が全くない。

翌日、この感動を胸に赤垣屋の本部のある千日前のアカガキヤビルを訪ねた。一階がカウンター、二階がボックスの「立呑処 赤垣屋難波店」である。合わせて三七坪でなんと月間二三〇〇万円を売上げるという。

「立ち飲みの持つ人と人との触れ合いを大切に残しながら、古くて暗いイメージは払拭し、おいしいものを安く楽しく提供する。うちは居酒屋ファストフードを目指しています。具体的にはドトールコーヒーのアルコール版です」

尾崎社長の言葉通り、どの店のスタッフも若くてはつらつとしている。動きもキビキビ一分間提供、これはまさにFFだ。それに各店に必ず一人はアイドルがいて楽しい、これはもうFF以上だ。この雰囲気だけでも赤垣屋繁盛の理由は十分に分かる気がする。

「うちはおいしさを一番大切にしています。そのために、セントラルキッチンで調理された新鮮で高品質な製品を、毎日各店に運ぶのです。また、四季のおばんざい『味蔵』という高級店までつくって調理の腕を磨き、商品の味を向上させる努力をしています」

なるほど「腰掛けの店よりも一品一〇〇円は安い」というだけでは、食い倒れの大阪の人々にこれほど支持されるはずがない。つまみは一〇〇円から三五〇円までと安いが、一五〇円のコロッケ(サラダ付)は神戸コロッケより数段うまいし、二五〇円のだし巻き卵も高級料亭に負けない味だ。どれを食べても本当においしい。

東京で立ち飲み屋といえば、乾き物に毛が生えた程度のつまみで酒を飲み、酔っ払うためだけの店だ。大阪で見たほかの立ち飲み屋もイメージ的には大差がなかった。これでは、赤垣屋だけがはやるのも仕方がない。

これだけの品質とサービスの維持には、相当細かい数値管理やマニュアルの徹底指導が必要であるが、赤垣屋の社員教育の方法をうかがった。

「もちろん、必要なマニュアルはありますが、やるのは人間です。うちのスタッフは定着率が高いので若くても仕事をマスターした人がたくさんいます。先輩から後輩に心の通ったノウハウの伝達をしていくことが、一番効果的な教育と思っています。今は特に、クレンリネスに力を入れています」

確かにどの店もきれいに維持されている。閉店時の清掃も完璧だった。

尾崎社長は一日おきに一店舗のペースで臨店し、ビール二本を飲みながら、店のスタッフとのコミュニケーションを欠かさない。一〇年前まで二〇年以上も本店の店長をやってきただけに、現場第一主義が徹底されている。QSCどれをとってもチェーン居酒屋や大手FFチェーンに引けを取らないオペレーション。そして何よりすごいのは、スタッフの心からの笑顔。こんな素晴らしい立ち飲み居酒屋は見たことがない。

赤垣屋を見て、立ち飲み屋の業種業態が悪かったのではなく、スタイルやセンス、そしてやり方が悪かったから駄目だったということが、よく分かった。喫茶店がスタンドコーヒーに変わって復活し、そば屋が立ち食いそばになって飛躍的に伸びたように、立ち飲み居酒屋がこれからの居酒屋業界のニューリーダーとなる日も近い。

そんな時代のエールを受けて、立ち飲み史上最強企業の赤垣屋が構築された実績と挑戦の社風をもとに、いよいよ本格展開を開始する。全国制覇も視野に入れて、当面の目標は大阪に四七店舗。平成の不況を打ち破る、これからの赤垣屋の動きに注目だ。

◆尾崎正紀(おざき・まさのり)代表取締役=昭和18年、大阪市生まれ。大学卒業後、先代社長だった父親が経営する「赤垣屋本店」で、店長を二〇年間務めた実務派社長。「継いだ時は忙しくて会社をどうしようかと考える余裕もなかった」そうだが、世間が見るお立ちの世界のレベルの低さをバネに、社内の古い体質を一掃。若い社員がプライドを持って働ける会社を築き上げた。「今の完成度は三〇%」と言葉は控えめだが、「赤垣屋」の名前の由来にちなんで大阪に四七店舗を出店することが当面の目標。

売れ筋メニューベスト5

●一位=おでん(一〇〇~一五〇円)ダントツの一番人気、夏でも売れる(構成比三〇%)

●二位=土手焼き(三〇〇円)大阪人ならやっぱりこれ(構成比一二%)

●三位=豆腐料理(二五〇円)夏は冷や奴、冬は湯豆腐(構成比七%)

●四位=枝豆(一五〇円)ビールのつまみの定番(構成比六%)

●五位=刺身(三〇〇~三五〇円)カツオのたたき、マグロぶつ(構成比五%)

◆(株)赤垣屋/本部所在地=大阪市中央区難波三-一-三二、電話06・643・2348/創業=大正12年/店舗数=五店舗(直営店だけ)/代表店の坪数・席数=梅田店一〇坪・二〇席、難波店三七坪・七〇席、本店一二〇坪・二〇〇席(腰掛け)/営業時間=梅田店午前9時~午後10時、難波店午前10時~午後11時(二階は午後5時から)、本店午前10時~午後11時/客単価=一一〇〇円弱/一日来店客数=梅田店約四〇〇人、難波店約七〇〇人、本店約九〇〇人/年商=梅田店一億六〇〇〇万円、難波店二億七〇〇〇万円、本店三億六〇〇〇万円/客層=男性客だけ、女性客なし(難波店の二階だけ女性客二割有り)/原価率=四〇%強

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