注目の外食ベンチャー レストラン帝塚山ボーネル
平成不況が色濃く影を落とす昨今、大衆店でさえ売上げ不振にあえぐ中、レストラン「ボネール」は今最も厳しい環境の高級店でありながら、オープン以来二六年間にわたる地道な営業努力の積み重ねで着実に売上高を伸ばし、今や年商三億円を超える繁盛店に成長した。バブルの当時、派手な内外装や奇をてらったパフォーマンスで話題をとった一過性の繁盛店や、チェーンストア理論を是として消費者や現場の従業員を無視して拡大を続けたチェーンレストランが倒産や不振にあえぐ中、変わることなく愛され続けるボネールの本質に迫った。
将来はリムジンでの送迎も
関西屈指の高級住宅地、帝塚山。その上品で閑静な街並みに溶け込むようにボネールは存在する。集客のためなら派手な看板や数多くののぼり旗で街の景観を破壊することなど何とも思わない店がはんらんする中、ボネールは店の前の幹線道路(南港通り)を走る車でさえ見落としてしまうほどの落ち着いたたたずまいである。こんなに目立たなくて大丈夫なのだろうか。
「一年に一回の人も含めてウチは固定客が七割」。開口一番、(株)ボネール水口和男専務が筆者の素朴な疑問に自信をもって答えてくれた。
「だれにでも自分だけの記念日があります。そしてそれを祝ってあげたい人がいます。一年に一度、もしかすると一〇年に一度の一番大切な日にゆっくりくつろげる、家とは違う環境をつくって差し上げる。それがボネールの基本コンセプトです」
だから、ボネールはお客さまのリクエストがあればどこへでも迎えに行く。将来はリムジンでの送迎まで考えている。店の駐車場はわずか一〇台なのに常時専属の駐車場係の人がいる。お客さまがくつろげるようにだそうだ。
コックだってサービスマン
ランチタイムでもピアノ演奏がある。これもお客さまがくつろげるようになのだろう。この世知辛い世の中、すべて効率優先で少しでも無駄を省いて利益を確保しようとどの店もやっきになっているというのに、ボネールのサービスは毎日が「利益還元お客さま感謝デー」だ。
「今のファミリーレストランに二〇年前の楽しさやワクワク感がありますか? この店はチェーンストアができないことをやるからお客さまにわざわざ遠い所からでも来ていただけるのだと思っています。スタッフには、自分がお客さまになって一万円を払うと考えてみてどうなんだ、という視点で自分たちのサービスを客観的にチェックさせ、お客さまがしてもらいたいことを実現できるように指導しています」
富岡営業部長の言葉の通り、この店では通路ですれ違うコックさんも立ち止まってにこやかにあいさつをする。「お客さまの前ではコックも料理人ではなくサービスマン」という教育が徹底されている。
かといってホテルのように堅苦しい雰囲気は全くない。ディズニーランドの掃除のおにいさんや切符切りのおねえさんのさわやかさだ。
従業員にプライドとハート
ボネールを支えるスタッフのレベルの高さは、大手FRチェーン本部の教育担当トレーナー以上といっても過言ではないが、それには理由があった。ボネールの上田総支配人は社歴三〇年で、オープン以来二六年間この店を任され、スタッフを自分の子供のように育て続けてきた。シェフも二〇年以上調理場を任されてきた。だからスタッフとの信頼関係は親子同然だ。
活性化という名目で人間を部品のように半年や一年で動かすチェーンストアとは違い、ボネールには人を定着させるプライドとハートが備わっている。だからこの店にはマンネリ化という言葉はない。
「それでもお客さまのニーズと時代の変化に対応するためにこれまでに三回テーマを決めて改装をしています。今のイメージはエンターテインメント型でお客さまに楽しんでいただくことが目的です」
今回のリニューアルから年数回のディナーショーを導入し、昨年からはブライダル業者とタイアップしてオリジナル結婚式も始めた。現在年間約六〇組。お客さまの満足を考えて一日一組を厳守しているのがいかにもボネールらしい。今年ボネールで結婚式を挙げたご夫婦が二五年後に銀婚式をボネールで祝う。そしてそれを同じ人が心からおもてなしする。そんな映画のような話がこの店では可能なのだ。
実際、上田総支配人には子供の時誕生日のお祝いにご両親に連れられてきた人が、二〇年後にお父さまの還暦のお祝いに来られたといった話がたくさんあるという。まさにサービスの百貨店ともいえるボネールの究極のサービスは、味への心配りだ。
厳選近江牛を和洋で生かす
二六年前、ボネールグループの企業ステータスシンボルとして、大阪にはない高級肉料理店をつくろうとして構想二年。考え抜いて出た結論は「牛肉の最もおいしい食べ方は世界で最もポピュラーなステーキと日本独特のしゃぶしゃぶの二つある」だった。洋食・和食とカテゴリーが違うので、それぞれに合った雰囲気と設備を一階と二階に分けて営業する。効率よりお客さまにTPOに応じた満足を味わっていただくためだ。
使用する肉は近江牛。最近ブランド名が先行して内容が伴わなくなってきた松坂牛や神戸牛より、通の間ではおいしいといわれる牛肉だ。その厳選された肉を、鉄板焼カウンターでお客の食べるペースに合わせて必ず三口分ずつ焼く。手間はかかるが、最初から最後までおいしく食べてもらうため、先代社長の教えをかたくなに守り続けている。
四半世紀にもわたりお客さまにとって正しいことを守り抜く姿勢が、お客との信頼関係を築き上げ、ボネールを確固たる繁盛店に押し上げたことの一例だ。
こんな素晴らしい店をぜひ東京にも出店して欲しいという願望を込め、今後の展開について尋ねてみた。
「ボネールグループ全体の規模拡大はこれからも積極的に推進していきますが、レストランボネールは、帝塚山一店で良いと思っています。帝塚山ボネールは、今後も企業のステータスシンボルとして理想のレストランを目指し続けます」
確かにお客はボネールがたくさんあるから食事に来るのではない。とっておきの店だから一番大事な日に遠くからでも来るのだということが理解できた。
◆福井美枝子(ふくい・みえこ)代表取締役=昭和3年大阪府出身の七〇歳。昨年12月に他界した夫で創業オーナーの故福井幸男氏(元大阪料飲経営協会会長)の遺志を継ぎ、主要八社、年商二五〇億円の総合サービス業、ボネールグループの基幹会社(株)ボネールの代表取締役に就任。実務面は若手幹部に任せ、本人はもっぱらまとめ役に徹する。ボネールには、名前の意味通り「人を幸せな気分にできるレストランを」との思いを託す。
◆帝塚山ボネール/所在地=大阪府住吉区帝塚山中一-三-一六、電話06・672・1210/創業=昭和47年/業態=住宅立地ロードサイド店舗・一店舗内に、四業種(鉄板焼、フレンチ、和食、ウエーティングバー)の空間を合わせ持つ大型複合レストラン/坪数・席数=二五〇坪・一五〇席/営業時間=午前11時~午後11時、無休/年商=三億二〇〇〇万円
※(株)ボネール(本社所在地=大阪府住之江区南加賀屋二-二-二三、電話06・683・7000)