店主の本音・プロが訪ねる気になる店 日本料理「万葉」
浦安・東京ベイエリアはホテルの密集地。激しく競合する激戦区では、ディズニーランド客と地元客とのバランスをとりながらお互いすみ分けてきた。二〇〇〇年夏には東京ディズニーランド直営のホテル「ディズニーアンバサダーホテル」が舞浜駅前にオープンする。ますます競合するホテル街区でどう戦うか、東京ベイヒルトン中国料理「王朝」の宮本荘三料理長が、東京ベイホテル東急日本料理「万葉」の佐藤保調理長を訪ね、今後の戦略などを聞いてみた。
◆訪ねる人=宮本荘三さん
(みやもと・しょうぞう)=東京ベイヒルトン中国料理「王朝」料理長(千葉県浦安市舞浜一‐八、Tel0473・55・5000)
昭和27年、北海道生まれ。中華料理といえばラーメンと思っていた上京当初から、小田急ハルク「豪華」、銀座「東京飯店」へと修業の場を移す。昭和52年、旧東京ヒルトン「星ケ岡」を皮切りに新宿・東京ヒルトン「王朝」、浦安・東京ベイヒルトン「王朝」とヒルトン一筋に歩む。
料理の鉄人、中国料理世界コンクール出場などで常にチャレンジと緊張感を楽しむ。最近は香港通いを台湾、中国に切り替え、温故知新の旅をする。
◆迎える人=佐藤保さん
(さとう・たもつ)=東京ベイホテル東急日本料理「万葉」調理長(千葉県浦安市舞浜一‐七、Tel0473・55・2411)
昭和27年、新潟県生まれ。昭和45年、新橋料亭「金田中」に入社、日本料理の修業を積む。昭和48年~52年に香港「金田中」に出向。この間、ホテル内レストランでのノウハウを蓄積、また精力的に回った市場では中国食材や調味料などの多くを知る。
平成2年、東京ベイホテル東急に日本料理「万葉」調理長として入社。かつて香港で得た経験をもとに佐藤流の日本料理を展開。今後も伝統を生かしながらも親しみやすい価格で日本料理のすそ野を広げていくつもりだ。
宮本 オープンして一〇年になりますが、立地上、ビジネス関係者の来客が少なくランチが弱い。あれこれ試行錯誤していますが、10月から三五〇〇円の飲茶コースを始めました。上海から料理人を呼び寄せ、客の前で餃子、饅頭など趣向を凝らしたものです。
夜のコースでは北京ダックを目の前で食べさせる演出はしていたんですが、昼によくあるバイキングでは新鮮味がない。何かインパクトを与えなくてはと思いついたのがこのイベント。
佐藤 取り入れたヒントは。
宮本 香港とか東南アジアへ行った時、外で食べる光景をよく見かけます。以前からこれの良いところを取り入れたら面白いんじゃないかと構想を練っていたんです。
佐藤 うちも昼にどう客を取り入れるかでは、同じ悩み。女性客向きに懐石風弁当をお通しから食事まで六品付け、三五〇〇円で提供しています。女性客は話好きの主婦層が多い。そのため話の腰を折らないよう一度で提供できる弁当風にまとめてみました。だんだん効果は出てきておりますが。
宮本 うちもコースをばら売りし、強調するところは強調しています。こういう時代だからターゲットは周辺の主婦層になります。そうなると、そう高い値段では駄目。
佐藤 三五〇〇円は、飲み物を付け、五〇〇〇円でおつりがくる設定。
宮本 サラリーマンがいれば昼間は何人ぐらいと見込みがたてられる。土・日は満杯なんですが平日は浮動。ここが難しいところ。
土・日は近隣のリピーター客、平日は地方の人が多い。完全に層が違います。
そのための訴求法として本日のおすすめをうたい、半分以上を占めるディズニーランド客には、写真入りで表示するなどの演出をすると、安心できるのか効果は大きい。
佐藤 うちでもお品書きを見せたり、懐石料理には写真を付けて出しています。この効果はありますね。また地元客へはホールから何々さんが見えましたと報告があると、あいさつを兼ねて出ていって要望を聞き、それから料理にかかります。
お客に自分だけのためやってくれたというイメージを与えるのです。都心のホテルのように構えていたのではやっていけません。
宮本 今はお客との一体化とホールとの連携が大事。私たちの上の年代にはなかったことです。浦安に来て一〇年になりますが、最初の二~三年は顔も覚えられず忙しい思いをしました。
四~五年たつとリピート客は決まり、客の好み、予算も分かってきたので細かく対応できるようになりましたが。
佐藤 私はオープン以来ですから九年になりますが、それまでいた銀座の料亭とはまるっきり違う。最初は戸惑いましたが、今では、たまに銀座の客と顔を合わせると、ここにいるのかと声を掛けてくださり、お付き合いが再開することもあります。
宮本 都心と違い家族連れが多いから難しい。子供のことを考えてあげなくてはいけない。
佐藤 なにしろ子供の天下ですからね。子供連れの場合、まず子供のメニューを決める。料理も子供のを先に出さないとぐずる(笑い)。
宮本 ディズニーランドに近いため、どうしても子供客が多くなる。来たばかりのころ、良い気分で食べているのに子供たちが走り回っている。我慢ができませんでした。最近はだいぶ慣れてきましたが。
食べてディズニーランドに行くか、帰ってから食べるかは夏と冬とでは違ってきます。夏は遅くまでやっているので食べてから行くため、回転率を上げ、売上げを伸ばすため一時間で食べ終えるメニューを五〇〇〇円、子供は半額の二五〇〇円で提供。
内容もエビをチリソースと塩にし、大人も子供も食べられるように工夫したものです。
佐藤 うちは子供用として肉とかフライ、野菜の煮付けなどを一つにまとめてお弁当にしています。これも小学校の低学年まで。高学年では大人と一緒、親も子供用に何を頼んでよいのか分からないようです。
宮本 佐藤さんのところは大変だと思いますね。すし、鉄板、天ぷら、これらすべてを統括した上、結婚式の宴会もあるし。
佐藤 レストランと宴会との比率は六対四。日が良い土・日は大変。食事をする時間は一緒ですから(笑い)。その上、朝食もあります。二〇〇~三〇〇はあるでしょうか。ディズニーランドに行く前ですから皆さんしっかり食べていく(笑い)。
そのためお茶碗で二~三杯食べるのに合わせたおかずにしないと。おきまりの朝食では駄目。また海の見える千葉の海辺をイメージさせるため、地場の魚、例えばタイ、キス、メゴチ、アナゴなど江戸前の良いものが上がってきますので、これをふんだんに使います。
宮本 二〇〇〇年の夏、舞浜駅前にディズニーランド運営の「ディズニーアンバサダーホテル」が、また二〇〇一年にはこのエリアを一巡するモノレールとNKホールにももう一つホテルが開業します。
佐藤 黙っていても人が集まってきますね。それだけに個性のある店を出していかないと危ない。リピートにつながる魅力あるものを作っていかないと。それも今から準備する必要があります。二つのホテルができてからでは遅い。お客とフレンドリーになって気持ちをつかんでおかないと。
宮本 浦安の土地になじんでいかないと駄目。私はついに浦安に住んでしまいましたよ(笑い)。
佐藤 葛西、市川、行徳、浦安とこのエリアにはホテルがいくつあるんですか。すごい場所ですね。
宮本 この中で個性を出していかなくてはいけない。お客の一人ひとりを大事にしなくては。頭を下げるだけで良ければいくらでも下げますよ(笑い)。
ここの良いところは本家・分家のつながりが強いだけに、フレンドリーにしていると長く付き合ってもらえる。結婚式、法事は絶対に強い。都内では一回きりですが。
佐藤 祝の席などで昔ながらのこだわりメニューを出し、うちのホテルならではの料理を印象づけたい。
宮本 うちも今、温故知新ではないが、守らなければならないところはきちんと守り、メリハリをつけた料理を出していきたい。こうしたことも浦安に来て分かったこと。今後も大変ですが、半面面白いところと思っています。