うまいぞ!地の野菜(11)山形県現地ルポおもしろ野菜発見「食用菊」
皇室にも献上
東北本線山形駅から延びるローカル線の左線。視野を遮ることなくどこまでも広がる田圃と畑。分断する最上川がゆったり流れる。
ここ寒河江は地味豊かな土壌と交通の便が良いことから、一帯の農家は野菜ばかりでなく果物、花き類と栽培品目を幅広く手掛ける。
「この辺りは昔から菊をおひたしや、漬け物にして食べていましたよ。菊は秋のものですが、もっと早く花を咲かせようと苦労したのがうちの親父です」と胸を張る氏家志信さん(46)。九年前に南部支所食用菊部会を結成、一四戸の会員をまとめる初代会長さんだ。
努力が実り、今では山形県が食用菊生産量全国一を誇る。種類は従来の黄色だけでなく濃淡のある紫色、形も大小さまざま。
テレビ番組で紹介され、名前もユニークなためよく知られているのが「もってのほか」。天皇家の御紋である菊を食べるとはもってのほか、また、もってのほかおいしいなどから転化したといわれている。
「礼を失すると思い、天皇家に食用菊を菊茶、菊枕として献上しました。感想はお聞きしていないんですが」
知る人ぞ知る
知名度の高い「もってのほか」もさることながら「春先から冬にかけて食卓をにぎわせる菊がもっとあることを知って欲しい」と訴える氏家さん。
食用菊の主力は三種あり、品名「岩風」「早生もって」「本もって」で九割を占める。
出荷サイクルは、3月末~7月まで花弁が大きくへん平で黄色の「岩風」。この後いわゆる夏菊といわれる「寿」、小振りで黄色、7月~10月の出荷。秋に入り9月上旬~10月末が薄紫の「早生もって」、10月末~11月中旬が「本もって」と続く。
「どんどん新しいものを研究していくのが楽しみ。今自慢なのは『長寿』です。11月中旬から出荷するんですが、寒い季節の花なので身に締まりがあり、期待したい商品ですよ」と身を乗り出す佐藤知徳さん。農家と二人三脚で売り込みに奔走するJAさがえ西村山の職員だ。
「子供のころから食べていたので違和感はなかったんですが、東京の市場に出したら観賞用の花をどうやって食べるんだとなかなか受け入れてもらえませんでした」
今でこそ知名度は上がっているが、数量的にはかなり低く、今後に期待をかけている。
全国の食卓へ
七年前に仙台へ販売を仕掛けた。電車で一時間の距離。食生活もかなり似ていると思い、山形で食べる醤油味のおひたしをごまあえ、からしあえで紹介したところ、反応は今一つ。
「何回か足を運び、地元の人とコミュニケーションをもつようになり、初めて仙台は味噌文化の地域と知り、目からうろこが落ちる思いでした」
今では食べ方もあえ物のほかサラダ、天ぷら、ピザなどとバリエーションを広げている。
「固定観念を捨てて欲しいですね。それに食べ方を知らない人が多い。酢をちょっと入れ、サッとゆでるだけでシャリシャリ感のある食感と香りが楽しめますよ」と言葉を添える。
会の作付け面積五町歩。一日、最盛期で一キログラムの箱を七〇〇ケース、平均三〇〇ケースを出荷する。
「口に入るものだから農薬は半分に減らしています。人から見れば思い上がりかもしれませんが実際おいしい」と語る氏家さんの心意気、きっと全国の食卓に伝わるだろう。
■生産者名=氏家志信、山形県寒河江高屋一四五、Tel0237・84・3548
■販売方法=東京中央卸売り市場
■価格=一〇〇g約一〇〇円