超繁盛店ルポ:海鮮の国「波奈」 海の幸+高級感
長期化する平成不況の中、不景気知らずのヤングをターゲットにした客単価3000円以下の大衆居酒屋チェーンでさえも伸び悩む昨今、5000円以上という高客単価にもかかわらずオープン1年目で年商5億円を売上げ、2年目に入っても20%の伸びを続ける驚異の超繁盛店波奈の実態と本質に迫る。
お見合い・結納にも利用を
JR総武線千葉駅。関東屈指のターミナル駅から徒歩一分と聞き、にぎやかな繁華街を想像して訪問した筆者が、目を疑うほど閑静な住宅街の一角に超繁盛店の「海鮮の國・波奈」はある。看板を取れば豪邸と見間違えるくらい、上品で落ち着きのあるたたずまいだ。
垣根が低い分料亭のような威圧感がなく、四〇〇坪の敷地にゆったりとレイアウトされた建物と、周りを囲む手入れの行き届いた庭がひときわ高級感を出している。
門をくぐって中庭を通り玄関についただけでも十分リッチな気分が味わえる。海鮮の國というだけにエントランスゾーンに大きないけすがあり、ヒラメ、伊勢エビ、アワビ、イカなど、千葉県内はもとより全国各地の漁港から生け車で運ばれた実にさまざまな海の幸が所狭しと泳いでいる。
調度品のディスプレーや空間の演出もハイセンスで実に素晴らしい。一階は広く明るいホールが中心で、調理の実演も楽しめるカウンター席と四人から六人掛けの掘りごたつ式のテーブル席がある。奥には豪華な特別室や小部屋もあり、接待・会合やお見合い・結納など幅広い用途で利用されている。
二階は一〇人から最大八四人まで収容できる六室の大・中宴会場がある。
くつろぎ重視相席させない
昼の営業は午前11時~午後2時30分(土・日・祭日は通し営業)。年配の女性客を中心に平均客単価一六〇〇~一七〇〇円のランチ需要で約七〇席のホールが二回転する。
夜の営業は午後4時30分~11時(日・祭日は10時30分)。四〇歳以上のサラリーマンを中心に平均客単価五〇〇〇円くらいで一・五~二回転。二階の宴会場もいろいろな目的の各種宴会で毎日大盛況だ。
「お客さまは何人で来られようとこの店でくつろぐためにいらしています。ですからたとえ六人掛けの席に二人連れのお客さまがみえても決して相席はお願いしません」と同店を手掛ける早野商事(株)の営業本部副本部長で支配人の早野泰広氏は言う。
満席時002人にスタッフ45人
お客さまにゆったりとした満足感を味わってもらうためにはコストを惜しまない。ピーク時には二〇〇人が満席の店内に四五人ものスタッフを配置する。それも半数近くはプロの正社員だ。
だから満席でウエーティング状態でも駆けずり回るスタッフがいない。全員が笑顔でお客さまに対して即反応できる態勢が常時整っている安心感は何ものにも替え難いものがある。平均月商四〇〇〇万円以上という超繁盛店にもかかわらず、お客さまに忙しい店と感じさせないすごさがこの店には存在するのだ。
「雰囲気、サービスも大切ですが飲食店で一番のポイントは何といっても新鮮でおいしい料理です。この店は漁港の近くの新鮮なものを、千葉の街中でダイナミックに召し上がっていただくことをコンセプトにしています。ほとんど毎日料理長が房総に仕入れに行っていますが、お客さまは敏感です。開店当初は八〇~九〇あるグランドメニューからの注文が中心だったのが、今では手書きの料理長おすすめ日替わり限定メニューからのオーダーがほとんどです。やはりこだわらなければお客さまは来ていただけませんね」
まるまる一本まんまの煮魚や、生けイカの姿造りなどボリューム満点のメニューが人気だそうだが、実際に筆者も試食してみて「透き通ったイカの抜群の味と歯ごたえもさることながら、イカの残った部分を後で塩焼きか天ぷらにしてくれる気のきいたサービスも、人気の支えになっているな」と感じた。
そのほかおすすめだけでなくグランドメニューからも片っ端から試食したが、どの品も高級料亭に引けを取らない素材と調理レベルと食器で、料理の満足度は極めて高い。そしてその一品一品の提供時に添えられる説明やテーブルの消化状況に応じたフォローなどのホールスタッフのきめ細かい気配りも実に素晴らしかった。
飲み放題なしあくまで料理
総売上げの中に占めるアルコールの割合が二割と低いことからもお客さまの波奈の料理に対する評価の高さがうかがえる。
宴会も基本的には飲み放題はつけない。料理をしっかり味わってもらいたいからだという。宴会の平均客単価が大衆居酒屋と比べかなり高めにもかかわらず、連日大盛況なのはその内容が価格に勝っていることの現れだ。
同店の、価格よりもおいしさを優先するという営業方針が大衆居酒屋チェーンでは物足りない本物志向のお客さまの心をとらえ、年商五億円の超繁盛店を築き上げたことは、不振にあえぐ飲食業界にとって大変注目すべき出来事だ。
消費が落ち込んでいるときには単価の高いものは売れないと決めつけ、価格は安いけれども内容も安いという戦術がまともな消費者にはいかに無意味かということを同店は証明している。消費者は価格が安ければ金を使うといった単純なものではなく、使う価値があるものには金を使うということを、同店を見て学べば、少しは景気も良くなるはずだ。
最後に気になる今後の展開について早野支配人に聞いた。
「海鮮の國・波奈という名前ではありませんが、ここと同じコンセプトの店をこの春もう一軒千葉市内にオープンします。既に去年の秋から新店のスタッフは波奈をはじめ早野商事グループ内各店でオープンに向けてトレーニング中です」
違う店名にするのはお客さまが予約などで間違えないようにという配慮だそうだ。徹底した顧客第一主義はすごい。それに店名を違えること自体に、波奈のコピーではなく、また新しいものつくり出すという心意気が伝わる。
いずれにせよ、次の店も店名は違っても超繁盛店になることは間違いないだろう。今後ますますの大繁盛とスタッフのご健勝を心から祈念して、超繁盛店ルポの中締めとしたい。
◆早野友宏(はやの・ともひろ)昭和40年、館山市に六坪のスペースで「波奈ずし」を開店。「お客さまが、その店で満足して帰られたかどうかは、帰り際の扉の閉め方でわかる」という早野氏。高校卒業当初は、シナリオライターを目指していたという氏の才能は、今でも時々デッサンの筆をとったり、メニュー撮影をプロ並みの腕でこなしてしまう、多才振りに受け継がれている。また、氏が今凝っているのは、アユ釣り。清流を求めて、休日には栃木県にまで足を伸ばす。カッとなりやすいが冷めるのも早いという、後腐れしない性格は、社員におおいに好かれるところであろう。館山市出身、五六歳。
◆早野商事(株)/本部所在地=千葉市若葉区小倉町一七五一‐三〇、Tel043・232・0144/店舗所在地=千葉市中央区弁天町二二八、Tel043・206・1587/坪数・席数=二四〇坪・約二〇〇席/営業時間=(月~金)午前11時~午後2時30分、4時30分~11時、(土)午前11時~午後11時、(日)午前11時~午後10時30分、年中無休/客単価=昼一六五〇円、夜五〇〇〇円/一日来店客数=約三〇〇人/月商四〇〇〇万円強/従業員数=正社員二一人、アルバイト四五人/昼は年配の女性客、夜は四〇歳過ぎのサラリーマン中心。