ヒットメニュー開発講座:新しい「すし」の売り方を考える

1999.04.05 175号 6面

すしは老若男女を問わず、ほとんどの日本人の大好物。飲食店の商品としても、専門店から総合和食店、あるいはすしとうどん、そばなどの麺類とのセットメニューを中心にしたFR業態、さらには回転ずしや持ち帰り店、デリバリー専門店に至るまで、さまざまな業態で強力商品として売られている。

消費者にとってはそれだけ、すしが身近なものとなってきたわけで、日常的に、ごく気軽にすしを楽しむようになっている。そのせいもあって、すしの好みや食べ方にも従来とは異なる現代的な傾向も目立つようになった。

例えば、一人前の「量」というきわめてベーシックな要素にしても、握り七カンに巻物二分の一という典型的な売り方では、満足できないお客が増えている。ビジネス街の昼食どきでは、一・五人前盛りという設計の商品が圧倒的な人気を博しているし、また、すしに小鉢物やサラダ、デザートまでセットした新しい食べ方も定着してきた。

すしは本来バラエティー感の強い料理のはずだが、最近の食し好ではさらに多様なすしの食べ方が求められているといえよう。専門店といえど旧来の売り方だけに固執していたのではだめで、やはり時代の流れに対応したすしの売り方を考える必要があるわけだ。

とはいえ、新しい商品を導入しようとすればそれだけ手間もかかるし、食材の幅も広がってくる。そこで役立つのが業務用の食材だ。調理の効率や食材のロスなどの問題はこの業務用の食材を活用することで解決し、積極的に新商品にチャレンジしたい。

いろいろなものを少しずつ楽しみたいという食し好は、特に女性に良く見られる傾向だ。

すしメニューも、単にネタのバラエティーがあれば良いというのではなく、食事としての構成に十分なバラエティー感があり、ひとつのコースとしての完成度が求められる。いくら良いネタをさまざまに盛り込んでみても、それは結局のところ、すしというひとつのものであり、単調な食事と感じてしまうのが現代の女性客の一般的し好なのだ。

すしをメーンとし、すしそのものにも変化をつけることは当然だが、そのサイドを固めるいわば脇役的な部分の工夫と魅力づけが大切になる。

その変化をつける部分では、業務用食材が役に立つ。前菜や珍味、小付け的なものを自店で仕込んでいては効率が悪くて仕方がない。出来合いの食材を巧みにアレンジすれば簡単にこの部分の魅力づけができる。

もちろん、若干食材料費は高めになるが、その分は商品の付加価値が増すことでより高い価格で売れるはずなので取り返しがきく。

前項のバラエティーし好とは逆に、特定の好みのものをタップリと食べたいというニーズも存在する。前項が女性に強く見られる傾向であるのに比べ、このタイプのし好は男性客の方に顕著に見受けられる。

単純にいえば高級感のある、価格の高いネタほどこの願望が強いのだが、それでは売価が異様に高くならざるを得ない。比較的原価が安く、かつ根強いし好のあるもので開発すべき。

すでにかなりポピュラーな商品になった「あなごの一本握り」や特大の卵焼きなどは、この典型ともいえる商品だし、特大のネタを使ういわゆる「女郎握り」も同様のもの。

業務用食材として定着したネギトロなども原価的に使いやすいものだし、それを好む客も多いので、これを使ったボリューム訴求商品も面白いはずだ。

このほか、一時に比べて相場が下がったイクラや、イメージの割には安価な北海生エビなどを使うのも一法だろう。

魚介類をネタにするすしは、本来、すぐれて季節性に富んだ料理であるはずだ。けれども、実際に季節を実感できるすしを食べるには、かなりのレベルの専門店にいくほかはない。

一般のすし店にしても、カウンターでのお好みでなければ全くといって良いほど季節感がなく、桶盛りなどは一年中その内容が変わらない店が珍しくない。

特に、最近のように養殖や涵養物が増えればなおさらのことで、これでは和食特有の四季の味覚という良さが失われてしまう。握りのネタとしての季節物の使用は難しい面はあるが、ちらしずしなどでは季節感を打ち出すのは簡単なはず。

握り用としては味が合わなかったり、形状が握りに適さないような食材であっても、ちらしならばのせるだけですむ。例えば春ならば、業務用の菜の花や桜の花の塩漬けをちらしにのせればそれだけでガラリとイメージが変わるはずだ。

季節感の訴求こそ、和食の最大の強味と認識してほしい。

世をあげて健康ブームの昨今、飲食店の商品にもさまざまな切り口での健康志向メニューが目立つようになってきた。すしはローカロリー、ローファットの印象が強く、健康料理の典型といえる。

また、生魚イコール新鮮なもの、自然なもの、という連想から、イメージ的にもヘルシー感が強く、この点では、きわめて時代のニーズにマッチした料理といえる。しかし、健康的な食材の代表である「野菜類」は、意外にすしには使われていない。魚介類だけではなく、野菜を使ったすしも時代の流れの中では売れる要素を持っている。

とはいえ、現実には使える食材は少なく、付加価値もつけづらいのは事実。それならば、コースやセットの中で野菜を組み込むと良い。サラダ的な料理もすしと組み合わせて全く違和感はないし、刺身とサラダの組み合わせはすでにポピュラーなメニューとして定着を始めた。

すしや刺身と野菜が合うか合わないかではなく、時代のニーズがそこにあるといえよう。

購読プランはこちら

非会員の方はこちら

続きを読む

会員の方はこちら