うまいぞ!地の野菜(16)岐阜県現地ルポおもしろ野菜発見「雪割りほうれんそう」
飛騨山脈を仰ぎ見る標高五七〇mの高山市は、4月14、15日の「高山祭り」が近づくと長い冬が終わり、一気に春めく。庭先の桃や梅、山の斜面には桜がいっときに咲き誇り、雪解けと同時に出荷に追われるのが「雪割りほうれんそう」栽培農家だ。
「積雪を利用して育てたホウレンソウは、ゆっくり生長。そのぶん葉っぱはみずみずしくて肉厚、本来持っていた味わいと甘みがあると評判ですよ」と目を細める中屋孫角さん(63)。
ビニールハウス内は、3月~4月半ばまでの出荷を待つホウレンソウパワーでムンムンする。
ここ高山市はホウレンソウをはじめ、夏秋トマト、夏秋キャベツなど標高差を利用した野菜産地として知られ、三〇年来作り続けられてきた飛騨のホウレンソウは、味の良さ、品質の良さで京阪神市場では定評がある。
ただ4月から11月出荷は他産地と競合し、値崩れをする、何か差別化を図っては、と市場からの提案を受け、ほうれんそう部会で検討、「六年前、一念発起し自家用で食べていた雪の下に埋もれ、冬を越したホウレンソウの商品化に踏み切った」経緯をもつ。
栽培法はレギュラーのホウレンソウが4月半ば~11月で出荷が終わり、この後、雪割りほうれんそうを播種。双葉が出、本葉が二~三枚になったところで一回だけ消毒薬を使う。ここでビニールハウスを取り除き、長い雪の下での眠りにつかせる。
3月の雪解けが始まると、取り除いたビニールハウスを組み立て、春を待つ雪割りほうれんそうの生長を促す。
「短い収穫期間なので、近所のパートさんにもお願いし、出荷に追われる毎日です」
心強い後継ぎ
どこの地域でも大きな問題になっているのが、農業従事者の高齢化と後継者問題。
「今まではコメやイチゴ、キュウリなどと手広くやっていたが、私も六〇歳。ホウレンソウの見通しもたったので、これ一筋でいくことにしました」と中屋さん。
五〇aのホウレンソウ畑で一年間六回の収穫。うち二〇aが、冬期は雪割りほうれんそう栽培地になる。
「確かに雪の下で貯蔵する大根やニンジンは甘くてうまい。ホウレンソウも同じ。でも雪が残っている中でハウスを建てるのは容易じゃないですよ」
雪との闘いで生まれるホウレンソウ。今年から息子の隆平さん(27)という力強い後継者ができ、新しい方向性が生まれてきたようだ。
「これからは事業としての農業にいく時代。それには、昔の私らが農業に燃えていたような情熱が足りん」と言葉は厳しいけれども、新しい後継者を得た喜びを隠しきれない様子。
夢は関東進出
ほうれんそう部会を置くJA飛騨。今後の方向を朝倉進副調査役は、次のように語る。
「レギュラーも雪割りも、年々増収を続け、軌道にのりかけているところです。今後は、高山市内だけでなく飛騨全体で取り組んでいきたい」
また、商品は地元に出回ることなく、京阪神市場が主流。「関東地区にも出したいが、まだまだ収量的に限度がある」。六五〇人の会員を擁するほうれんそう部会。引き継がれてきたホウレンソウ栽培技術をもって、さらなる飛躍が期待される。
■生産者名=飛騨蔬菜出荷組合協議会ほうれんそう部会、岐阜県高山市冬頭町一五‐一、Tel0577・36・3880、FAX0577・36・1107
■販売方法=京阪神市場中心の扱い。
■価格=二〇袋入り一ケースで二七〇〇円~二八〇〇円。一袋二〇〇g一四〇~一五〇円。