これでいいのか辛口!チェーンストアにもの申す(30)吉野家の京樽支援
またまた大ニュースが飛びこんできた。倒産した持ち帰りずしの大手「京樽」は、冷凍食品の「加ト吉」によって事業再建中であったが、今回同じ更生会社からスピード回復した経験を持つ、セゾン外食グループの優良会社「吉野家ディー&シー」がそれに加わることが決定したというのである。
生き残りかけ新たな道模索
このニュースが、物語ることはなんだろうか。最近の吉野家の動向から見て、今までのガチガチのチェーンストア経営からの脱皮がほのかに見えるのである。
この連載で、何度も吉野家を取り上げて来た。そのたびに、吉野家本部からおしかりを頂戴したことがあった。がしかし、今回は大いに誉めなければならない。今度は逆に、吉野家本部からはお褒めの言葉を頂戴したい。
というのも、あれほどガチガチのチェーンストア経営を堅持してきた吉野家が、牛丼ビジネスではそのチェーン的な生き方を固持しつつも、もっとほかに生きる道も模索しているようなのである。
吉野家にとって、チェーンストア以外の経営方法とは実は“初体験”なのである。現在の阿部社長と幸島副社長は、創業者松田元社長に育てられたアルバイト出身の経営トップなのだ。しかし吉野家USAに派遣され、アメリカのデンバーの大学で経営学を学んだ二人なのである。
しかし、二人とも純粋に吉野家出身のために、他社での経験がない。チェーンストアしか知らないのである。企業業績が好調のときはそれで良いが、一旦業績が悪化しだすと打つ手がなくなってくるというジレンマに陥る。
ところが吉野家は、思わぬところでチェーンストアの限界を突き破った。チェーンストアではない、チェーンストアとは全く違った経営での成功経験をしていたのだった。
千葉県を中心に展開している回転ずしの「ハミータ」である。この連載でも何度か取り上げたが、すしの世界ではもう既に、チェーンストア的な経営は破綻しつつある。
まず、カッパ寿司がその典型である。あのご飯(しゃり玉)に、ネタをワサビで張り付けたような回転ずしや、「小僧寿司」や「茶月」のような、冷凍(または事前カット)ネタの持ち帰りずしも、既にお客からは見放されてきている。
今までのこれらのチェーン企業は、熱心にわが国チェーンストアのコンサルティング会社「日本リティリングセンター」のセミナーに通い続けていた。しかし、業績は下降するばかり。特にその代表の京樽は、ついに倒産してしまったのである。
そのすし業界のチェーン経営に「何か変だな…」と気付いた吉野家は、多角化事業の一環として平成9年に早野商事(本社=千葉市)から買収した回転ずしの経営を、思い切ってチェーンストア方式から大転換し、成功を収めたのであった。
この回転ずし店ハミータは、平成9年に地元の早野商事から吉野家が買い取ったものである(形式的には合弁となっているが、実態は吉野家の完全な子会社である)。当時はたかだか八店舗の冴えない回転ずし店であった。
この回転ずしチェーンは、はじめカッパ寿司や元気寿司のような、マニュアルで徹底した管理をしたチェーン方式が取られた。しかし早野商事がうまくいかないものを、いかに天下の吉野家といえども立て直すことは至難の技であった。
そこで、早野商事が持っている銚子港、富津港、御宿港の各魚市場の競り権を利用し、競り落とした新鮮な魚を各店へ配送し、それを店でさばいてすしのネタに使ったのである。
こうして、今大流行の新鮮グルメ回転ずしへとハミータは変身し、千葉方面では回転ずしの他チェーン店をおさえて、ナンバーワンに成長した。今ハミータは、地元では圧倒的な人気店になりつつある。
郊外型の回転ずし店で、月商二〇〇〇万円クラスがドンドン誕生している。そして現在、二〇店舗の布陣となり千葉での成功をもとに、全首都圏でいっきにチェーン展開すべく、ハミータの店舗開発マンがそこかしこで物件を探しまわっている。
このハミータを蘇らせたやり方は、マニュアルでだれでも(パート・アルバイトでも)がすしを握り、統一され規格化されたチェーンストア的な運営管理のあのやり方ではない。各店ごとに魚を仕込むなど、チェーンストアの神様渥美先生が聞いたら腰を抜かさんばかりの、職人的で手づくりのやり方なのだ。
一方、吉野家が平成8年から急激に始めた多角化事業は、マスコミ報道とは裏腹に鳴かず飛ばずの状態であったのだ。こうして、チェーンストアではない繁盛ビジネスを体験した吉野家は、今回京樽への経営参加という大手を仕掛けたのである。
京樽管財人に田中氏を派遣
何故ここまで自信を持って筆者が言い切れるのか?そうお考えの読者のために、京樽の事業管財人に吉野家から派遣される人物を見てほしい。新聞にはほんの片隅にしか載っていないが、その人こそハミータコーポレーションの社長、田中常秦氏だからなのである(田中氏は吉野家の常務でもある)。
この事実だけで、すべてが氷解するはずだ。何故彼なのか? それは、ハミータ流のチェーンストア経営とはまったく違う経営のやり方で、京樽を蘇らそうという大いなる挑戦なのだ。吉野家が初めて取り組んだ、この大いなる賭けにエールを送りたい。
こうして、吉野家の新たな飛躍の時が、今訪れようとしているのである。
(*最後に、加ト吉にとってもこの話は好都合だった。国内で最大のコメを消費している吉野家とのタイアップビジネスは、コメを次の事業の柱と考える加ト吉にとって大きなチャンスでもあるからなのである)
(仮面ライター)