名古屋版:繁盛店ルポ、旬菜「おお田」
一八歳で地元老舗ホテルの和の厨房に立ち四年、割烹料理店などで数年と、ずっと和の世界を経た店主太田さんが、七年前に独立開店した「おお田」は、名古屋屈指の繁華街、栄四丁目入り口近くのビルにあり、一階(約一〇坪)はおでん、二階(約三〇坪)は割烹、六階(約二五坪)には会合・宴会専用の座敷とのれんを掲げる。
お客は六対四で男性。それも背広姿の企業オーナーが多く、女性も三〇代ぐらいからの中間管理職風が多い。
二階には、一〇人ほどの和室と、樹齢四〇〇年といわれるヒノキの一枚板のカウンター(一五人席)がある。常連客が気のおけない二、三人で座を取り、ジャズが流れる中、会話と食事をゆっくり楽しむ雰囲気を壊したくないと、今までタウン誌などの取材にも応じず、宣伝もしなかったが、お客がお客を介し集まり、一階のカウンター十数席を含め、毎日ほぼ一巡する。
旬菜の名に期待する、天然物など味が分かるお客が多いので、仕入れには特に気を使う。献立は毎日変わり、この日は春の訪れを告げる「いさざ(しろうお・しらうおとは異なる)躍り」が筆頭にあった。
定番では季節の刺身盛り合わせ二五〇〇円。カウンターの大皿から取り分ける煮物は六〇〇円ぐらいから。三千盛、高山など辛口中心の地酒も一〇〇〇円内外から楽しめ、客単価は七〇〇〇円ほどになるが、この素材では利益は薄いと太田さんは笑う。
おでんは五年前から始め、たねにも工夫が光る。定番はもとより、ロールキャベツや巾着など、手のかかったものが多く見た目も楽しい。庶民的な家庭の味が、少しだけしゃれた、気取らない一皿になる時、店主の姿勢が垣間見える。
食材と味付けで季節を知らせ、くつろげる場所をも提供する。それが一過性で話題が先行するブームではなく、洗練された最小限の演出によって作られた、再び足を運ばせるほど心地よいもてなしだという。
「ほかの店と比べようがない。お客さまがここを気に入って下さればそれでいいです」
開店前の支度は常連客の顔を思い浮かべながらか、手を休めることなくこたえていただいた。
◆名古屋市中区栄四‐二〇‐一七、第八和光ビル1F、052・262・6203、営業時間午後5時~11時、日曜休み