で・き・る現場監督:山水楼店長・江川健一氏

2000.05.01 203号 15面

「日比谷山水樓」。東京で初めて本格的な中国料理が食べられる店として大正11年に創業、以来確固たる地位を保ち続けている老舗だ。現在は丸ノ内オフィス街の国際ビルに場所を移したとはいえ、店構え、味、サービスなど徹底した老舗魂は変わらない。

そんな山水樓に転機が訪れたのは、都庁の跡地に国際フォーラムが建ったとき。それまで日曜日は休業していたのだが、地域からの要請で営業を余儀なくされた。

そこで思い付いたのがバイキング。土・日曜の午前11時~午後3時半を、制限時間一時間、料金一五〇〇円の食べ放題タイムとした。

老舗の看板をかなぐり捨て、テレビや情報誌などの取材にも積極的に応じた。結果「山水樓」の名を知らなかった人たちもこぞって足を運ぶようになった。

「正直言うと、バイキングを始めることに最初は抵抗を感じましたよ。老舗の看板に傷が付くような気がしたんです。でもね、バイキングに来てくださったお客さまにこの味を評価していただいて、今度は夜に来ていただければ、こんなうれしいことはないですね」

飲茶や前菜、揚げ物、デザートなど全一六種類が食べ放題とあって、今では家族連れやカップル、女性グループなどで、行列が絶えないほどの人気だという。

現在山水樓では、調理チーフ以下、三人の香港出身スタッフが腕を振るっている。日本人好みに多少アレンジを加えているとはいえ、本場の味に限りなく近い広東料理が味わえるというわけだ。ただ、考え方や習慣の違いから、チーフとの行き違いが生じたこともたびたびあったという。

「以前テレビの企画で、花見料理を作ってほしいという要望があって引き受けたんです。それをチーフに伝えると『中国には花見料理というのは存在しない。だから作れない』とかたくなに拒むんです。信念を曲げろとは言わない、一途なのもいい。でも柔軟な発想も必要なんだ、とじっくり時間をかけて説得しました」

バイキング効果で軌道に乗ってきた山水樓だが、まだまだ踏ん張らなければ、という江川さん。少ない人数で動いているため、スタッフに休憩時間や休みを満足に与えられないことがもっぱらの悩みだとか。

とはいえ、スタッフは一〇年以上働いている人が多く「ここで包丁を握っているのは楽しい」と、長時間の労働もいとわず、毎日調理場に立ち続けるスタッフもいる。江川さんの熱意を意気に感じ、スタッフ一丸となって老舗の看板を守ろうとしている様子が見てとれた。

◆(株)山水楼/代表取締役=秦典三/創業=大正11年/本部所在地=東京都千代田区丸ノ内三‐一‐一、国際ビル、03・3212・3401/店舗数=一店舗/年商五億円

◆山水樓/東京都千代田区丸ノ内三‐一‐一、国際ビル、03・3212・3401/店舗面積=三〇〇坪・二六〇席/従業員=正社員二一人、パート・アルバイト一六人/客層二〇~六〇代、男性、女性五割/客単価=昼一〇〇〇円、夜二五〇〇円、宴会六〇〇〇円

◆えがわ・けんいち=昭和22年鹿児島県生まれ。知人の紹介で飲食業界に入り、和食の調理などを経験した後、ホール専任に。52年山水樓に入社以来、二三年間老舗の看板を守り続けている。自分が休みであろうとも、なじみのお客から予約が入れば、休日を返上して出勤することもしばしばあるという。「老舗の看板を守るということは、そういうことだと割り切っています。ただ、友人との休みが合わず、大好きなゴルフになかなか行けないのが残念ですが」

◆こだわりの食材

漢方薬のなかで最高級とされる鹿茸(写真右)と冬虫夏草。

鹿茸は鹿の角をパラフィン紙ほどの薄さにスライスしたもので、胃に良いとされている。一万円からのコースに「鹿の角のスープ」として提供する。

冬虫夏草は、夏に生えた中国産の草に虫がとまることによって、栄養分をたっぷり含んだコクのある漢方薬になるという。滋養強壮や目に良いとされ、中国人に珍重されている。これもコースによって、スープや炒め物、煮物などに加えて出す。

いずれも収穫時期が限られ、中国でも手に入りづらい貴重な食材だ。

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