御意見番・一人勝ち!スターバックス徹底検証:王利彰・清晃代表取締役
コーヒー店には、かつての喫茶店のような格好良さがもう一度必要だ。「スターバックス」は、専門家に言わせると味はおいしくないが、演出がうまい。経営者はセールス畑の出身で、一般的な外食の考え方とは一線を画した戦略が特徴だ。物販・ブランドという部分まですべて範ちゅうに入れた雰囲気を売っている。
コーヒーは生活必需品というわけではない。飲まなくていいものをどう飲ませるかが課題だ。これまでも空間、雰囲気、場所の提供などプラスアルファのエンターテインメントを提供して喫茶店は生き残ってきた。
スターバックスは、もっと店に足を運ぶことに価値観をもたせようとした。それが特別なものだというブランドの創造に懸命に取組んできた。そこが他の外食店との最大の違いだ。販売場所も空港のターミナルや機内食、一流ホテルのルームサービス、流行の百貨店などで、普通の倍の値段のコーヒーをわざと売っている。イメージ戦略のうまいサザビーと組んだことも成功の要因だろう。ブランドを浸透させる上でサザビーはピカ一だった。日本の若者は、スターバックスイコールおいしいコーヒーを飲む以外に、格好良いという受け止め方をしている。
スターバックスは、何が格好良いかをよく研究している。日本の外食はマニュアルでがんじがらめになっていて、従業員の服装にもうるさい。三〇年前の時代錯誤の規則そのままだ。スターバックスにそうした規則はなく、時代に適応している。だからといって従業員に甘いわけでもなく、教育に大変力を入れている。店舗も外食の標準化という概念を取り払い、店ごとにすべてデザインが違う。喫茶店では個性も重要な要素だ。
現在スターバックスに対抗できるところは皆無だろう。ほかの類似業態が競合しようとしても、基本のコンセプトが全く違う。だから形だけをまねするのは間違いだ。フードやサービスなどで、スターバックスにはできないことを訴えた戦略をしなければいけない。
米国で唯一対抗できるのは「コーナーベーカリー」で、惣菜とコーヒーを提供している。日本でもロイヤルがその点に着目して、焼きたてクロワッサンとコーヒーを売り物にした「カフェクロワッサン」を始めた。
スターバックスというのは、実はオリジナリティーがない。米国の「ピーツコーヒー」(バークレー)のデットコーピーだ。もともと創業者はピーツで修業してシアトルで開業した。店の展開の仕方はピーツが原形になっている。一号店は物販でコーヒーのひき売り専門店だった。それをイタリアのバールをまねしてイートインを展開、イメージ、格好良さを付加していったという経緯がある。どのようにピーツを改善して今の成功につながったかという歴史を見ると、スターバックスに対抗するためには何をしたらいいか、欠点をどう攻めるかが見えてくる。そこに勝ち目があるはずだ。
◆王利彰(おう・としあき)昭和22年東京都生まれ。立教大学法学部卒業後、(株)レストラン西武(現・西洋フードシステム)を経て、日本マクドナルド入社。SV、米国駐在、機器開発、海外運営、事業開発の各統括責任者を経て独立。外食チェーン企業の指導のかたわら立教大学、女子栄養大学の非常勤講師も務める。