人手不足解消法(21)現実的人材確保のノウハウ

1993.02.01 21号 5面

この連載が始まった頃、日本国中で「人手が足りない、人材が欲しい」という話でもちきりであった。

中でも外食産業の人手不足は深刻で、業種によっては、人手不足が原因で閉店に追いこまれたケースもでたほどであった。

だが、バブルの崩壊、日本経済に吹く不況風が各産業に及んできた段階で、独り外食産業だけがその枠外にいられるはずもなく、営業不振による倒産・縮少が相次ぎ、業界全体が沈滞し操業短縮、人員整理といったかつて経験したことのない時代が到来、当然のように人余りの時代になった。売り手市場が反転することになったのである。

この段階で他産業から外食産業への人材流入が期待される風潮も広がったが、現実にはこの非近代的な業界への転進は、その人にとってかなりの勇気のいることであり、加えて世の中いかに変わったとはいえ、所詮は“水商売”の観のあることも否めない。

外食産業が近代化されたとはいえ、それは一部の企業であって、業界の大部分は依然として非近代的である。いろいろと発表される資料、統計をみてもその実態がわからないのである。

質の良い人材確保といっても有名大学出身で外食産業で働こうとするものは数少ないし、例えあっても一部の企業のみである。勿論人材のレベルが学歴によって判断できるとはいわないが、少なくとも大卒者がこれだけ増加している社会で、外食産業への就職希望者が少ないというのは、どこに原因があるのか。産業全体が考えねばならないことである。

まず第一に挙げられるのは、外食産業のトップの多くが苦労を経て現在の地位を築いてきたということである。そのこと自体尊敬に価するとしても、常にそのことが心の底にあって、企業の社会的意義に関する意識が低く、自分の築いた企業をどうするかは、自分の勝手だといった考えが強いことも否定できない。

その考え方が社員の待遇問題も含め、他社を研究し自社の将来ビジョンを樹てようとしない背景となっている。従業員の待遇改善や提案に耳をかそうという姿勢のないことが、人材確保の路をはばんでいる。

これでは質の良い人材確保は無理な相談というものである。時代が変われば、人の生活も変わる。少なくとも時代の最低限度のものは考慮しなければ、良い人材の確保はむずかしい。

この場合、その良し悪しは別にしても、今やどんな職を選ぶにしても、誰もが世間並みの生活を求めるのは当然である。

今回ここで述べたいのは人材確保の基本は一旦確保した人材の定着率をいかに高めるかであり、いかに定着した人材に効率よく働いてもらうかということだ。

定着率を高めなければ、多くの費用を使って、多くの人を採用しても、笊で水を汲むに等しかったら、その費用は無駄というものである。教育・訓練で採用した人材のレベルアップが図られるなら、一人の力が二人、三人の能力となって、発揮されることを認識しなければならない。

目まぐるしく変化する社会環境、それに対応する人材確保の内容の変化は当然である。それが場当たりであれば、やがて景気が回復し人材の数的不足に再び逢着したとしたら、場当たり的人材確保をした企業がどのような結果を招くかは改めていうまでもない。

人材確保で四苦八苦していた時代に、なりふり構わず法を犯して外国人労働者を使っていた企業が、今ここにきて、違法滞在者の雇用をしないように、などといってもそれは許されることではない。

生き残るのにいろいろな形があるように、人材確保も様変わりしている。今こそ人材開発の本来のあり方を考える時であろう。

最後に重ねて指摘したいことは、現在働いている人材が胸を張って、自らの関係者の入社勧誘をしたり、自らの出身校にその職場を誇れるようにすることが、重要であるということである。つまり、雇った人材をもっと大切にすることが必要だということである。

購読プランはこちら

非会員の方はこちら

続きを読む

会員の方はこちら