御意見番・外食業界に喝!:谷口正俊・かいエンタープライズ代表取締役
介護保険制度が始まって、高齢者や障害者に配慮した設備を付帯する店舗が増えてきたが、本当に当事者の側に立ったサービスなのか疑問だ。
たとえばバリアフリーの店舗。トイレやスロープが大げさなくらい目立つように造ってあり、明らかに周りの景観や雰囲気を壊している。実はそれに対して車イスの人たちは、「申し訳ない」という気持ちを持っているという。
店舗側の対応と障害者側の気持ちにギャップがあるのは、企業がイメージ戦略やPRの一環として、そうした設備を導入しているからだろう。
周囲の壁と同系色にするなど、目立たせずに造る方法はいくらでもある。目立つように造るというのは、PRしたい健常者の論理にすぎない。そうした設備は、障害者の人たちのハンディキャップをさらにクローズアップするだけだ。
バリアフリーと同じく、点字メニューもこれから導入しようとする店が増えてくるだろう。私がいまコンサルタントしている店舗でも点字メニューを作っている。
しかし点字メニューを印刷で作る場合は、とてもコストがかかるということが分かった。点字は紙に凹凸を打ち込む方法と、特殊なインクを使って印刷する方法があるが、インクの厚さが〇・二六㎜以上あれば九割の人が識別できるが、それ以下だと読めないことがある。点字の厚さを出すための印刷には特殊な機械が必要で、その機械を持っている印刷所は日本では数社しかないという。印刷代は通常の二倍だ。
こうした現状を考えると、中には印刷コストをかけず、インクの厚さを若干盛り上げただけの粗悪な点字メニューを出すところも出てくるだろう。また透明でも読める点字を、わざわざ赤や黒で目立たせるところも出てくるかもしれない。
外食企業もこれから、環境や障害者に配慮した取り組みは絶対必要だ。しかし、当事者の使い勝手を無視した企業の自己満足だけで終わらないよう、警鐘を鳴らしたい。
◆谷口正俊(たにぐち・まさとし)昭和31年兵庫県生まれ。立命館大学経済学部卒業後、和風FF「一口茶屋」の(株)チェポ入社。チェーン化創業メンバーの営業統括として全国に三〇〇店舗を築く。四〇歳を機に独立、(株)かいエンタープライズを設立し、自ら和風レストランなど三店舗を経営するかたわら、飲食コンサルタントとして活躍。理論より実践、システムよりマインドがモットー。