定番メニューのルーツ探訪:カツカレー誕生秘話「グリルスイス」
「だれにでも気軽に洋食を食べてもらいたい」と、創業者岡田進之介さんとその息子の岡田義人さんが「グリルスイス」を銀座に開いたのは昭和22年。当時、進之介さんは宮内庁御用達の店「宝亭」(麹町)で、義人さんは帝国ホテルの仏料理人として働いていた。だが、「フルコースの堅苦しい食事よりも、一品メニューの洋食を気軽に楽しんでもらいたい」と思い立ち、グリル(食堂)を掲げて独立した。そして、プロ野球選手・千葉茂さんとの出会い。千葉さんの注文をきっかけに「カツカレー」が誕生し、現在は三代目の庄子あけみさんと弟の敏晴さんによってその味は守られている。
当時の「グリルスイス」は路地裏に隠れ家のごとく営業し、芸能人や野球選手が好んで足を運んだという。巨人軍の千葉茂選手も常連の一人だった。ある日、カツレツとカレーが大好物の千葉さんに「お皿を二つ並べるのは面倒、一緒にしてほしい」と言われて作ったのが「カツカレー」の誕生だった。
その後、「カツカレー」は「本日のスペシャルメニュー」としてたびたび店に登場するようになる。当時、特に若者に人気があり、スイスでカレーを食べて、銀パリでお茶を飲むのが、銀座の小粋な遊び方とされた。古くからの客の中には「僕らの絶好のデートスポットだった」と、昔を振り返る人も多いという。
しかし、本格的に“元祖”として火がついたのは、千葉さんがスポーツ紙の連載で「カツカレーを発明したのは自分だ」と書いてから。急に問い合わせが増え、店自体も大変びっくりしたという。そして、瞬く間に「元祖カツカレーの店」として世の中にその名を知られるようになった。
カツカレーと聞いて、しつこいと敬遠する人もいるだろう。しかし、スイス自慢のカツカレーは胃にもたれない。野菜ベースで煮込んだカレーはサラッとしていて、カツのうま味を引き立てるからだ。
スイスのカレーは、玉ネギ、ニンジン、リンゴ、ショウガ、ニンニクなど数種類の野菜をすり下ろしてブイヨンで煮込むカルカッタカレー。大きな特徴は、とろみにパンを使うこと。通常のルーカレーは、小麦粉を使うが、スイスでは食パンに水を加えてうらごし、味ととろみをつける。
「通常のカレーは、何日も置くとペタペタしてきますが、スイスのカレーは、置けば置くほど野菜のうまみや濃度が出てきておいしくなります」と、あけみさん。何日も寝かせてうまみを引き出すという。しかし、味を守るのは、味を変えないことではない。客の嗜好の変化に伴い改良もしている。
「以前は、カレーのうまみを出すために角切り豚肉を使っていましたが、次第に肉を残すお客様が増えたので、思い切ってひき肉にしてみました」
それが功を奏し、具がでしゃばらない、揚げたてカツにピッタリなじむカレーになった。
現在、銀座本店「グリルスイス」のほか、安く気軽に“元祖カツカレー”が食べられる店を「キッチンスイス」として二店舗展開中だ。
◆グリルスイス(東京都中央区銀座3‐5‐16、03・3563・3206)営業時間=午前11時~午後5時(平日午後3時~5時アイドルタイム)火曜定休
●私の愛用食材 業務用カレー2kg缶
「カレー粉はエスビーの二㎏缶。ほかに浮気したことはありません」と庄子敏晴さん。日本人が一番なじみ深いカレーだと、創業以来一貫して、この商品を使っている。野菜ベースのスイスのカレーは、何日も煮込んで、すべての素材が一つに調和。そこに、エスビーのカレーならではの風味とピリリッとした味が加わり、食欲を誘ってくれる。揚げたてのカツとのバランスも見事。