新店ウォッチング:カフェ・ディ・エスプレッソ珈琲館
喫茶店チェーンの老舗「珈琲館」が、既存店五店舗で培ったエスプレッソ店のノウハウを集積した新業態「カフェ・ディ・エスプレッソ珈琲館」を東京・渋谷にオープンした。
珈琲館は、昭和45年に一号店をオープン。現在は直営・FC・海外店を合わせて約四五〇店舗を展開する老舗のコーヒー店チェーンであり、近年は「KO:HI:KAN」という共通ブランド名称を軸に、「カフェ珈琲館」「エスプレッソバール珈琲館」といったさまざまな業態でチェーン展開を進めている。
東京・渋谷は、業界誌のみならず一般メディアでも取り上げられるほど、いわゆるグルメコーヒー戦争のまっただ中にあるといわれている地域だが、同店は、その渋谷公園通りの入口、ファッションを中心に若者に人気の丸井百貨店が、「シティ館」と「ヤング館」の二店舗を構える一角にあり、周辺は平日の昼間からショッピングなどを楽しむ若者であふれている。
同店の外観上の特徴は、まず見上げるほどの高さのファサード(店舗前面)に現れている。公園通りを望む道路に面した入口は、高さ三mはあろうかという大きな板ガラス四枚で組まれた自動ドアと、その上の巻き上げ式の張り出しテントから成り、さらにその上には裏照明が入った浮き出しのロゴマークが取り付けられ、ロゴマークの両脇上部の壁面には、突き出し看板の機能を果たす小さなバナーサインが下がっている。
テラコッタを思わせる明るい土色の壁面は、夜になると路面から壁面上部に向けた間接照明が当てられ、照明に浮き上がったロゴマークと併せて、都会的なカフェの雰囲気を醸し出す。
また、店頭に銀行のATMが設置されていることも、この店の大きな特徴のひとつだ。店舗入口の隣りには、前述の入口と全く同じデザインで文字サインだけが異なった入口がもうひとつあり、その中には二台のATMが設置されているが、実際は、このふたつの入口は中でつながっており、客にとっては店舗の中にATMが置かれているという感覚である。
店舗面積は、競合する多くのグルメコーヒー系チェーンと比べても、かなり大きい。店内は、天井高を生かした余裕のある空間を落ち着いたアースカラーでまとめ上げ、壁面には大きな現代絵画調のパネルが何枚か配置されている。サービスカウンターの上には、さりげなく「バリスタ」(コーヒー職人)の認定証らしき文書が飾られている。
商品は、これまでの「エスプレッソ珈琲館」のメニューに加えて、カプチーノやプラッペといったジャンルを大幅に増やし、ドリンクメニューの三分の二はエスプレッソを使用した商品構成となっている。
各アイテムのサイズ構成も、これまでの二サイズから「L」サイズを加えた三サイズ構成を中心として、最新のトレンドに対応しており、二〇代前半の若者などを取り込んで、これまでの客層をさらに広げていく考えであるという。
一般には、いわゆる喫茶店チェーンとして有名な珈琲館であるが、これまで実験を重ねて来たノウハウを基に、本格的なエスプレッソ中心の新業態の展開に踏み切ったものとして、業界の注目を集めている。
◆取材者の視点
バブル崩壊以後、コーヒー店チェーン業界は長らく新しい展開の方向性を見出せず、ドトールコーヒー店が確立した二〇〇円以下の低価格路線を踏襲しながら、ハンバーガー店とも競合する一五〇円~一八〇円の価格帯を中心に激しいシェア争いを繰り広げて来た。
そこに、大きな一石を投じたのが二五〇円以上の価格帯を中心にしたスターバックス・コーヒーであったわけだが、この「平成の黒船」の成功によって刺激された多くの外資系コーヒーチェーンや、国内の有力チェーンが次々と同様の価格帯に参入し、「グルメコーヒー」などと呼ばれる同じようなスタイルの業態を立ち上げはじめた。
特に、東京・渋谷においては、若者から通称「スタバ」と呼ばれるスターバックスをはじめ、当初ブランド名を隠して試験的に営業していた「シアトルズベスト・コーヒー」、以前にこのコーナーでもご紹介した欧州系チェーンの「セガフレード・ザネッティ」、国内最大手のドトールコーヒーの新業態「エクセルシオール・カフェ」など、それぞれの企業が旗艦店レベルの店舗を投入し、一部メディアが「渋谷コーヒー戦争」などと呼ぶようなありさまとなっていることは周知のとおりである。
しかし、そうした前向きな現状とは裏腹に、先行大手チェーンの既存店レベルでの収益性を疑問視する声や、業界を驚かせた「カフェ・ド・クリエ」の経営移譲問題など、コーヒー店チェーン業界は必ずしも明るい話題ばかりとは言えない。
同店は立地の良さもあり、今後も十分な成功を収めるであろうと思われるが、今後の店舗展開には、先行チェーンを引き離すだけの独自のスタイルを見出す必要もあるのかも知れない。
◇店舗データ
◆「カフェ・ディ・エスプレッソ珈琲館」(珈琲館(株)、東京都渋谷区神南一‐二二‐八、渋谷東日本ビル一階、03・5728・2123)開業=二〇〇〇年9月26日、店舗面積=四六坪、客席数=七二席、営業時間=午前7時30分~午後10時30分
◆筆者紹介◆
商業環境研究所・入江直之=店舗プロデューサーとして数多くの企画、運営を手がけ、SCの企画業務などを経て商業環境研究所を設立し独立。「情報化ではなく、情報活用を」をテーマに、飲食店のみならず流通サービス業全般の活性化・情報化支援などを幅広く手がける。