めざすは一流MISS料理人:伊料理「ラ ヴェラ」ピッツァ職人・野田牧子さん
オープンキッチンの店内では、ピザを焼く牧子さんに、声をかけてくる客も多い。「本当はサービスしないといけないんですけど」と思うものの、オーブンに神経を集中させている牧子さんは、つい無愛想になってしまうのだそうだ。
帽子を目深にかぶって、言葉も少なく控えめに話す牧子さんだが、実は、繊細にして大胆不敵。どんなことでも「やってみなくっちゃ分からない」という破天荒なエネルギーを内に秘めている。
大学一年の秋休み、友人と行ったイタリア旅行で、牧子さんの運命は変わった。名店「リストランテ ビサーニ」で食べた料理が素晴らしくて、日本人のシェフに感動を伝えたら、「じゃあウチで働いてみれば」と言われた。その一言で、速攻翌年の春には大学を中退し、イタリアに飛んだという。
それまでは料理好きの普通の女子大生だった。全く知り合いもいない異国で始まった新しい世界へのチャレンジ。でも「不安はなかった」とサラリと言う。
ビサーニ以外にも菓子職人の見習いとしていくつかの店で研さんを積み、二年後に帰国。最初はいまのホテルのペストリー部門でアルバイトをしていた。
「イタリアで修業していた子がいるって聞いて、ウチにくればいいのにと思っていた」と斉藤シェフ。当時から牧子さんのことを気にかけていたという。ピザの経験はなかったものの、牧子さんは店にきてすぐに段取りを覚え、テキパキと仕事をこなした。いまでは冷蔵庫の管理から日替わりメニューの開発まで、すべて一任されている。
イタリアでの経験は財産だ。
「イタリアではトマトの収穫期になると、もう毎日飽きるくらいトマトソースばかりでした。でもそれは自然の恵みを余さず食べるイタリアだから。何がイタリア料理かという境界線は難しいけど、やはりイタリア人が作るものと日本人が作るものは全く違う」
ピザを焼きはじめて一年半。そろそろ次のことがしたいという。でも、独立は考えていないときっぱり。
「料理と経営は一緒にできないと思うんです。やれないことはないけど、本当に大変なのは継続することだから。自分がさほどストレスを感じなく、料理ができる環境でいたい」
将来のことは分からないという。自らを型にはめないその潔さに、無限の可能性を感じさせる二七歳だ。
●シェフから一言 斉藤悦男さん
何でも自分でやって人に頼らない。仕事のうえでは男性顔負け。手が早くてともかく賢いですね。ディナータイムには、ピザの仕込みが終わると忙しい厨房に入って、仕込みや盛り付けの手伝いをどんどんやっている。もう彼女が厨房を仕切っているくらいです。いまの姿勢を崩さずに、自分の目標をはやく達成してほしいですね。
●プロフィル
◆のだ・まきこ=1976年和歌山県生まれ。父親の海外赴任にともない、5~13歳までベルギーと米国で暮らしていた。現在は母親と二人暮らし。パソコンが得意で、イタリア料理とワインのホームページも作った。日本酒の利き酒師の資格も持っていて、近々地酒の情報もアップしたいという酒豪だ。
●シェフのいちおし食材
一〇年前は生ハムというとしょっぱくて使えなかったが、いまは上質のイタリア産が手に入るようになった。そのまま食べてもおいしいし、魚に巻いて焼いたり、パンにはさんでもいい。うちでは前菜に必ず使っています。リピーターも中には、生ハムをメーンにしたコースを頼んでくる方もいます。切ってみて霜降りがあるものが抜群にうまいですね。
◆ヨコハマグランドインターコンチネンタルホテル「ラ ヴェラ」=神奈川県横浜市西区みなとみらい一‐一‐一、電話045・223・2222(代)