トップインタビュー:ヴィータ・カルチャースクール代表取締役副社長・永澤洋一氏

2001.04.16 226号 20面

料理長としての経験と実績を生かし、これまでに1000店舗以上の繁盛店をプロデュースした(株)ヴィータ・カルチャースクール代表取締役副社長の永澤洋一氏。景気低迷下の昨今、飲食トレンドのキーワードは、「隠れ家」「辛み」「酒」「脱日常」という。その背景について聞いた。

‐‐これまでに直接指導、間接指導併せて一〇〇〇店舗以上をプロデュースしているが、外食業界の現状をどう踏まえているか。

永澤 スターシェフがいてマスコミなどに取り上げられる店と、低価格で展開している店の二通りがあるが、つらいのはその中間の店。メニュー力に際立った点がなく、しっかりした仕入れルートも確立していないため、価格が下げられないというような店の淘汰が激しいのが現状。

そのなかで成功させるポイントとしては、駅前などの一等地に建ち、だれもが入りやすい大衆店と、立地条件の悪さを逆手にとって、「知る人ぞ知る」という付加価値をつけた、いわゆる隠れ家的な店舗の二極化が挙げられる。

ただ、立地条件がいいと、その分家賃が高い。家賃が高いのにコストを下げなければならないという矛盾に対応できるのは、大手だけというのが現状だ。一方の隠れ家的な店は、わざわざ足を運んでくれるお客のニーズにこたえるため、価格よりもメニュー力や人の魅力が重視される。

したがって、現在苦戦している中間的な店舗は、こうした隠れ家的な店を目指すことによって活路を見出すのが賢明ではないかと思う。当スクールでもその辺を重視しており、直営店舗で反映させていく予定。

‐‐消費者が今一番求めているものは何だと思うか。

永澤 バブル期は「高いものイコールいいもの」という消費者意識があったが、今は逆に「高いものは怪しい」と疑ってかかる。ただ、安いものばかりを求めていると、ある時、ふとその反動がやってくる。そんな時に頭に浮かぶ店というのが重要になってくる。そういう時に行く店というのは、お客ははじめから価格を度外視しているから、はっきり言っていくらでもいい。ただ、そこには『脱日常』というキーワードが必要だと思う。

‐‐脱日常とは。

永澤 景気や社会が不安定な昨今、消費者は外食産業に日常回避を求めている。要はいかにストレスを発散することができ、至福のひとときを過ごすことができるかの、瞬間勝負。料理はもちろん、インテリアやBGMなど、すべてにおいて脱日常の空間が演出できれば、おのずとお客がついてくるのでは。

また、人間はストレスが溜まるとなぜか辛いものが食べたくなるという傾向があることに加え、アルコールでストレスを発散させたいという欲求もある。

つまり、辛みのきいた料理と、それに相性の良い酒、そして脱日常の三本柱が求められる。こうした要素をトレンドとして仕掛けるのもいい。

‐‐メニュー展開を含め、トレンドな飲食店の条件をどのように考えるか。

永澤 メニュートレンドでいえば、より良い素材を使ってよいものを作るという当たり前な条件に加え、創作力が必要になってくる。イタリアンにしろエスニックにしろ、その店独自のイタリアン、エスニックを展開しないとだめ。

「トラットリアempoli」では今、「東京の素材を発掘しよう」というのがキーワード。イタリアンだけれども、使用しているのは東京Xという豚肉だったり、漬けマグロ、浅草海苔だったりする。東京の良いものをイタリアンと融合させて、店の売りにしようというわけだ。

トレンドというのは回り回っているものであり、逆に、あってないようなものとも言える。熱しやすく冷めやすい消費者が大勢を占める昨今、今はやっているものをまねしてもまったく意味はなく、むしろ次にはやりそうなものを探したほうがいい。だからトレンドとは追うものではなく、自分で仕掛けるものだと考えている。

‐‐今後の外食産業に必要なもの、またどのような展望が理想か。

永澤 辛いもの、酒、脱日常がキーワードだと言ったが、酒においては、ビール、ワインが相変わらずの人気。最近はウイスキーの人気が復活しており、ウイスキー片手にじっくりと過ごすお客が多い。今後ますますそういった需要が伸びることを念頭におき、一人でも足を運びやすいスペースづくりというのが必要になってくるのではないだろうか。辛みに関しては、日本ではまだ知られていない調味料を発掘したり、単独で使用するのではなく、調合するなどして独自にアレンジするなどの工夫を施すことが大切。外食産業は今は淘汰の時代で、大手チェーン傘下に入るか、個人でがんばるかの選択を余儀なくされている。前者は安心感は買えるけど、冒険ができない。後者は先が読めない暗中模索の世界といえる。現状としては資本力のあるものが勝つ、というように、徐々に大手産業にシフトされていくのではないだろうか。理想的なのは大手チェーンからの分離によって、独自のチェーン展開を行うことなのかもしれない。

◇私の愛用食材

ひと昔前までは、ポピュラーな飲み物として人気のあったホッピー。ヴィータ・カルチャースクールの直営店「菜食人酒」ではドリンクメニューにこのホッピーを加えた。何を飲もうか悩んでいるお客がいたらまずすすめてみるが、これまでホッピーを知らなかった世代でも、一度飲むとお代わりをするという。セットで頼むと焼酎が別になって運ばれてくるので、二杯目からは自分の好きな割合で飲む人も多いとか。

「これからはお客参加型がはやる時代。ドリンクも最終的に自分で仕上げるという点で、ホッピーを取り入れてみました」

◇企業データ

◆(株)ヴィータ・カルチャースクール(東京都渋谷区道玄坂二‐二五‐五、島田ビル五階、電話03・5428・0303)=基本料理をはじめ、菓子、パン、エスニック、イタリアンなど、趣味としての料理を教える「カルチャーレッスン」、カクテルやワイン、コーディネート、プロデューサーなど食のプロを育てる「フードビジネスレッスン」、開業や経営、管理、調理といった基礎講座を展開し、経営のプロを育成する「ショップオーナーレッスン」の三つのスクール事業からなる。また、イタリアンベースの創作料理店「トラットリアempoli」と無国籍料理店「菜食人酒」を直営店舗として展開している。

◇プロフィル

◆ながさわ・よういち=昭和31年東京都生まれ。高校時代にバレーボール部で活躍し、大学推薦が決まっていたが、家庭の事情で断念。目標を喪失していたとき料理人である義兄の友人にすすめられ料理界へ。「レ カトルセゾン」「マルゲリータ」を経て、「マルキーズ」「サントロペ」「アセビアン」「ウエストウッド」などで料理長を歴任。また、赤土経営研究所で指導部部長、主任講師としても手腕をふるう。

現在はヴィータ・カルチャースクールの取締役副社長と校長を兼任し、「トラットリアempoli」の総料理長を務めるかたわら、イタリアの「リストランテ・ピッツェリア・グロッタ・アズッラ」をはじめ、全国で一〇〇〇店以上もの店開業を指導し、ショッププロデューサーとしても高い評価を集めている。また、味の素やクノールの新商品開発にも携わるなど、活躍の場は多岐にわたる。

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