この1品が客を呼ぶ:「インドネシアラヤ・新宿店」ナシゴレン
数年来のエスニックブームは相変わらず衰えるところを知らないが、ここインドネシアラヤは、ブームのはるか以前、昭和32年から本格的なインドネシア料理を提供している。なかでも少し甘口に仕上げたインドネシア風焼飯「ナシゴレン」は、客の8割以上の人が注文するという人気メニューだ。
インドネシアの民俗音楽やポップスが流れ、現地で買い付けた民芸品が所狭しと並べられている店内は、ここが日本であるのを忘れさせてしまうほどだ。
ここ新宿店がオープンしたのは、まだエスニックという言葉さえなかった昭和36年。以来四〇年間、インドネシアラヤはインドネシア料理専門店として、変わらぬスタイルを守り続けている。
インドネシア料理といっても、スマトラ地方のパダン料理、スラウェシ地方のメナド料理、ジャワ地方のスンダ料理、そしてバリなど、味付けは地方によって大きく異なるが、この店では地域ごとの味が楽しめ、さらに新橋店、銀座店に比べて、最も現地の味付けに近い仕上がりになっている。
「新宿店にはインドネシア人はもちろんですが、マレーシア人やアラブ圏のお客さまも大勢いらっしゃいます。そうした、いわゆる舌の肥えた方たちをも満足させよう、ということで、味付けが本場のものに近付いていったのかもしれませんね」
と店長の前川哲男さん。
以前はインドネシアにゆかりのある年配者が客層を占めていたが、エスニックブームを機に、二〇代、三〇代の女性客が増えてきたという。
メニューはおつまみ、スープ、串焼き料理、肉料理、鶏料理、野菜料理、海鮮料理、そしてご飯や麺類など約五〇種類。それにコースやセット、ランチメニューがある。
それらのメニューのなかでオープン当初から変わらぬ味を守り、客の八割以上の人が注文するというメニューが、インドネシア風焼飯のナシゴレン。現地では屋台料理として、バナナの葉を受け皿にして日常的に食べられているもの。
ここではいろいろなものがトッピングされた「ナシゴレンスペシャル」(一一〇〇円)が大人気だ。
味の決め手は、インドネシア料理には欠かせないサンバルという調味料。これは店の味を左右するといわれるほど重要な調味料だが、インドネシアラヤではエビ味噌が入ったサンバルを使用する。サンバル自体は独特の臭みがあるが、炒めることによって香ばしさに変わるのが特徴だ。
味付けはインドネシアのなかでは甘口とされるジャワ風。ココナッツシュガーの入った甘口の醤油で味を調え、クルプック(エビせんべい)、サテ・アヤム(鶏の串焼き)、アチャール(野菜の酢漬け)、そして目玉焼きとトマトを盛り合わせて完成だ。
ご飯は本場インドネシアではタイ米を使用するが、ここでは日本のコメを用いて硬めに炊き、軽く炒めた状態で冷ましておく。それをオーダーが入ってから改めて炒め直すことによって、タイ米同様、粘りのない状態に仕上がる。
「今では日本でも食材や香辛料などを手に入れることができるようになりましたが、ほんの五年前までは年に一、二回は現地に仕入れに行っていたんですよ」
調理の経験もある前川さんは、一度に二〇〇キログラムもの食材を買い付けていたという。現地出身の客も多いとあっては、妥協は許されないのだ。
ランチだけでも毎日二五〇食以上のオーダーがあるナシゴレン。週末には行列ができるほどで、昔なじみの常連客からは「最近は空席がない」と嘆かれることもしばしばだという。
◆「インドネシアラヤ・新宿店」=東京都新宿区歌舞伎町一‐二三‐一五、杉山ビル5F、03・3200・4835/坪数・席数=一四〇坪・五六席/営業=午前11時半~午後11時
◆こだわりの食材 レモングラス
インドネシアではポピュラーな香辛料で、おもに香り付けに使われている。インドネシアラヤでは「ソト・アヤム」というチキンスープに使用している。
もともとスープはおかずとして考えられており、ソト・アヤムも鶏肉、ビーフン、卵、長ネギ、セロリの葉など具がたっぷり入ったもの。そこにニンニクとエビせんべいを混ぜて粉状にしたものを加えた、独特の香ばしいスープだ。
スープが出来上がってから、根っこをつぶしてざくに刻んだレモングラスを加えて、さわやかな酸味の香りを付ける。
◆記者席からのコメント
最近ブームの「カフェのご飯」でもオリジナルのエスニック料理を出す店が多いが、この店のナシゴレンは本場の味に限りなく近い、独特の味が楽しめる一品。辛みのなかにほのかな甘み、さらにコクもあって、さまざまな香辛料の味が絶妙にからみ合うという、ひと口でいろいろな味わいが楽しめるのが魅力だ。
盛り合わせの目玉焼きや鶏の串焼きなども食欲を増進させるのにひと役買っており、ひと口運んではまたひと口と、スプーンの休まる暇がない。これから夏場にかけて、さらに人気が高まりそうなメニューだ。