飲食店独立開業特集:初々しく一途に、上場企業の管理職から大転身
昨年の暮れから今年にかけて雇用情勢は悪化の一途をたどった。完全失業者数三四二万人。失業者のうち、企業の倒産、リストラ、定年など非自発的な離職は一一五万人で、一年前に比べこれも二四万人増。円高不況だった一九八七年12月以来、最悪の状態となっている。その背景には、不況とデフレによる企業業績の悪化がある。年功序列賃金や終身雇用を維持してゆく体力の無くなった企業では、中高年管理職に対するリストラが横行。こうした、リストラ流行の荒れた企業現場から飛び出し、“青雲の志を抱き、独立の旗を高く掲げた”脱サラ飲食店が増えている。主役はもち論中高年。若いころ、学生運動を戦った団塊の世代である。
昨年暮れ、東京都三鷹市の住宅街に突然新たな居酒屋がオープンした。「愉悦や、おもしろ屋」(たのしや、おもしろや)である。オーナーは、臨床検査業界でナンバー2の(株)BML(ビーエムエル)の元取締役営業本部長・坂本市郎氏(53)だ。
店舗は、駅から一キロメートルも離れた六階建てマンションの一階(二一坪)。不動産屋からは、「今まで何をやっても駄目だった物件なんですよ」と念を押された。
だが、周囲の予想に反し大繁盛。半年を経て月商四〇〇万円以上を維持している。
「不況にもかかわらず毎日四〇~五〇人のお客様が来店して下さいます。『マスター、おいしかったよ』って言っていただけるのが何よりうれしい」
「建て前ばかりできれい事を言って数字に追い回されていた上場企業の管理職より、『いらっしゃいませ』とお客様に声をかけているほうが、私には似合っています」と言う。
素人経営ゆえの初々しさ、まじめさ、一途さがそこにはある。この素人経営の初々しさが、お客様を引きつける。「頑張れよ、坂本さん」、思わずそう言ってしまいそうな、そんな脱サラ飲食店の成功を、心から願わずにいられないのである。
(2面につづく)













