焼き肉特集:確立された“安全対策”、これが狂牛病騒動の実態だ
「牛が危険だ!」という「風評」がマスコミや世間に広がっていき、それを支えている産業が被害をこうむる、これを風評被害という。つまり誤った情報や「じぁないかな」という根拠の無い憶測が大きな影響を与える時代になったのである。
今回の狂牛病発症のニュースは、全国の精肉店・焼き肉店に多大な影響を与えた。なかには売上げが五〇%も減少した店もあるようだ。精肉店・焼き肉店が単独で感染源になることは有り得ない。
その意味で、これらの店は完全な風評被害の被害者である。今回の風評の中身を検証してみると、誤解や曲解によるものも多い。何しろ狂牛病の人への感染も、「その確率が高い」といわれているだけで、完全に感染すると病理解明されたわけではない。
狂牛病の人への感染により生じると思われる、新変異型ヤコブ病という病気があるが、この病気の元のヤコブ病は、わが国でも年間一〇〇人ほど発症している。感染確率から見れば、感染すること自体非常にまれである。
わが国では欧州と食文化も異なり、習慣的に危険部位を食べ続けないので、人の発症は起きにくい。栄養学的に見てもすぐれたタンパク源である牛関係の食品を拒否するなどということに意味があるのだろうか。学校給食関係からの牛肉などの排除は、根拠があってのことではなく、感情的になりすぎた行為であろう。日本人の国民性といえばそれまでだが、経済上の損失が大きい。
最近は、インターネットをはじめ雑誌・新聞・携帯電話などなど、情報手段の発達であらゆる情報が世間にあふれている。特に先進国を中心に、「情報化社会」という新次元の世界を形成しつつある現在、情報のもつ重要性は高まっている。
しかし、その中には重要な情報とそうではないゴミ情報が存在する。多過ぎる情報のほとんどが、無益な情報であるといっても過言ではない。その無益な情報の洪水のなかで、集団ヒステリーのような過剰反応が引き起こされている。
TVの人気番組で、○○ががんに効くと報道されると、その日のうちにスーパーの棚から、その食品がなくなってしまうというのもその例だ。
一昨年の、食中毒に端を発した雪印騒動は一体何だったのか。一時は、全国民的な「雪印不買運動」の様子を見せていた。「雪印」と聞いただけで、あらゆる商品がボイコットされ、スーパーの陳列棚から外された。
ところが一年たった現在、食品売場には豊富な雪印商品が陳列され大いに売れているようなのだ。確かに製品の衛生管理は大幅に改善されたことであろう。
しかし、あの当時の集団ヒステリーのような不買騒動は異常な光景であった。現在の狂牛病騒動は、狂牛病の実態を無視したこの手の大騒ぎに近いと思われる。狂牛病の防疫体制は、今年10月18日、農林水産省と厚生労働省が合同で発表した「安全宣言」で一通りの結論が出た。今後は、安全な牛肉だけがと畜場から出回り、それ以外のものは一切市場に出回らないシステムが確立されたのである。
ここ数年、わが国の消費者の本物専門店志向は変わっていない。ファミリーレストランやファストフードに飽きてきた消費者は、本物の味と雰囲気を求め専門料理店に足を向けてきた。そのなかの一つが焼き肉店であった。
ステーキでもないハンバーグでもない、おいしい肉料理として焼き肉店を選んだのだ。しかし、当時の焼き肉店というのは実態は韓国料理店であった。今のような専業の焼き肉店というものは、当時ほとんど無かった。特にチェーン焼き肉店が表現するような、ファミリー焼き肉店はここ数年登場してきた新しい業態なのである。
ファミリー焼き肉店は、いわば焼き肉のファミリーレストランである。これらの店は、従来の韓国料理店とはかなり装いを変えた店である。ほとんどのメニューには、焼き肉類しか載っていない。
ファミリーレストラン全体が、衰退傾向にあるなかで焼き肉ブームを背景にファミリー焼き肉店だけは元気が良かった。今回の狂牛病騒動で多大な影響を受けたのは、こうしたファミリー焼き肉店である。狂牛病騒動が焼き肉ブームに水を差したからである。世のお母さんたちなら、だれでも自分の子供に襲いかかる危険を逃れたいと思う。
だから郊外にある、肉類しかメニューに無いファミリー焼き肉店には行かなくなったのだ。考えてみればファミリー焼き肉店は、本物志向が求めたものとは逆の方向である。これからは本物志向の専門料理店しか生き残れないとすれば、狂牛病騒動がなくてもこの手の店は早晩行き詰まるのは目に見える。
ファミリー焼き肉店には、肉類しかメニューに無い。しかし本物の韓国料理店には、チジミもあればチョレギサラダもある、冷麺もあればおかゆもあるという風に、肉料理以外にさまざまな料理がメニューに載っている。またそのメニューが、独特の味付けと料理法でおいしく、健康にも良いと評判を呼んでいるのである。
こうして肉料理以外の食事と焼き肉を一緒にとることで、バランスの良い食事が可能となるのだ。いま消費者の健康志向が進むなかで、焼き肉店はもとの健康食としての韓国料理の原点にかえるべき時ではないのか。
今現在、風評被害の真っただ中で苦しんでいる焼き肉店には、元気を出していただきたい。牛肉は栄養学的にも優れた食品で、健康生活には欠かせない食物である。国をあげての万全の防疫体制が整備され、安全でおいしい牛肉が供給されるようになった。
風評もいつまでも続くわけはありません。今までの忙しさで、ろくに掃除もできなかった脂ぎった店内をピカピカに磨き上げ、安全でおいしい焼き肉を求めて来店されるお客さまを笑顔で迎えよう。
風評被害に負けずに、明るく元気に頑張れ焼き肉店!。
((有)日本フードサービスブレイン代表・高桑隆)
■参考2/安全宣言=今年10月18日、全国的に検査体制が確立された。BSEの感染が疑われる牛が発見されても、新しい検査システムによって完全にチェックされ、食用、飼料原料として一切市場に出回ることはない。これがいわゆる安全宣言。狂牛病の牛がいなくなったということではなく、市場に出る牛はいないという意味。