御意見番・安売り競争の行き先を憂う:伊藤文明・文明出版代表

2002.01.07 243号 2面

何をもって安いというのか。ダイソーの一〇〇円を考えれば、吉野家の二八〇円はまだ高い。ダイソーでは、シーツや辞書に至るまで、こんなものと思うものまで一〇〇円で売っている。これは安さの次元が違う。経営者の創造力の問題だ。いまの外食産業の価格競争は、ユニクロやダイソーとは、まだ経営の次元が違う。品質や材料を落とすのではなく、価値を上げて価格を落とすことが安価だろう。

マクドナルドの六五円もだれも考えられなかった。ウイークデーは赤字でも土・日で稼ぐというのが経営の創造力だ。まともに考えればできないことをやる。一般的な次元を超えた安さを打ち出すために、知恵をいかに働かせるかという新しい経営の時代が来る。

デフレが一般化すると安さも価値がなくなる。コンビニがマックに対抗して五〇円の菓子パンを開発した。いままで飲食店より、実はコンビニのパンやおにぎりが打撃を受けていた。各社が安売りでしのぎを削り、悲鳴を上げているが、周りが同じ安物になったら価格の優位性がなくなるというのは、価値がなかったということ。ダイソーに対抗して九八円や六八円ショップも出てきているが、ダイソーに勝てない。ダイソーの強みは一〇〇〇円の価値のあるものを一〇〇円で売っていることだ。

飲食店の価値をどこに求めるかは、値段も価値のひとつだが、飲食店とは総合産業で、食べるだけではないいろいろな楽しみがある。経営者が総合的な価値における価格をどうとらえているか。価格で勝負するのか価値で勝負するのか。お客さんの立場で考えるという経営者の哲学が問われるだろう。

安売り競争の行き先はといえば、価値競争になるということ。その価値の創造をどこまでできるか、単純な価格競争から、早くそこに転換できたところが勝ち組みになるだろう。

◆伊藤文明(いとう・ふみあき)長野県生まれ。立教大学経済学部卒業後、柴田書店入社。『月刊食堂』『ドライブイン・モテル経営』の編集長を経て、旭屋出版に入社。『近代食堂』『すしの雑誌』などの編集長を経て、平成8年文明出版を設立し独立。わが国で初めて日誌式社員自己啓発誌『月刊仕事の記録帳』を創刊。同誌の編集主幹として健筆を振るう。

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