秋田農友会の「あきたこまち」 より安全にが合い言葉、生産農家から消費者に直販
「八郎潟に入植して三十数年になりますが、以前は量産のためのコメ作りをしていたんです。量産のためにはどうしても化学肥料の力に頼らなければならなかったんですが、これではいけない! 安全でよりおいしいコメを多くの人に食べてもらいたいという思いが強く、同じ志をもつ三〇人の仲間が集まったんです」と語る川渕文雄さん。平成元年、大潟村に設立した「秋田農友会」の代表を務める。
大潟村は昭和39年、日本海を前に、奥羽山脈や白神山地に囲まれた日本第二の湖、八郎潟の干拓地に誕生した。
この地は、長年にわたり周辺河川から流れ込むさまざまな有機物が堆積し、コメ作りに適した肥沃な土壌を形成している。
また日本海からの風は、病害虫の発生を抑え「農薬をほとんど必要としない」まさに自然の恵みをたっぷり受けた大地でもある。
「私たちが丹精込めて作ったおいしいコメの味、徹底管理による安全性の高いコメをそのまま提供できないものか」との思いがありながら、従来の流通体制では問題があった。
打開策はないのか。「コメは生鮮食品と同じ。鮮度を保つには低温貯蔵し、注文を受けてから精米し、配送すればおいしく食べられるのでは」との結論を得た。
こうして生産から販売まで一貫体制を整え、生産者と消費者がより近づいた直販体制に踏み切ることに。
当初のターゲットは地元消費者だったが、徐々に首都圏へと販路を拡大。また次第に真価が認められ、口コミでも「秋田農友会のあきたこまち」の評判を高めていった。
生産量五万俵のうち、三万三〇〇〇俵が宅配で占めるまでになり、残り分に付加価値をつけての商品化を考えていたところ、無洗米が浮上、早速導入する。
研がずに炊ける、水の無駄がないなど利点の多い無洗米は、精米したコメを滅菌した水で洗い、風をあてて水分を取り除いたもの。
「自然を大切にしてこそおいしいコメ、安全なコメ作りができる」というポリシーから、研ぎ汁はタンクのなかで微生物の力を借りて水と有機物に分解。水だけを河川に流す。
また精米過程で出る大量のコメぬかは、自家工場に集め、微生物の力を借りて約三週間かけて自然発酵、ペレット状にし肥料として田圃に施す。
「コメぬかはビタミンB群、E、ミネラルなどを豊富に含み、これを養分にして育つ稲はうまみたっぷり。安心して食べてもらえます」と自信の無洗米は、全出荷量の五二%を占めるほどに。顧客層も一般消費者ばかりでなく、業務用のレストラン、病院、給食などと販路を広げている。
「あきたこまち」は昭和59年に誕生し、今年で一七年目になる。
「コメは、残念ながら年を経るごとに、本来もっている味わいを失っていきます。あきたこまちも例外ではなく、特徴とする甘みと粘り気をなんとか残していきたいと思っていた」矢先、もっとも近い味を保っている平成元年産種もみ七gを入手。三年かけて増植し、昨秋には商品化にこぎつけた。
「ここまでこだわりの種もみを使い、有機栽培に限りなく近づけた農法で、手間ひまかけて作るのは、おいしいコメを食べてもらいたい。それだけの思いからです」と熱っぽく語る川渕さんである。