コーヒーの職人“バリスタ” 世界最高の華麗な技、マーチン氏のエスプレッソ

2002.05.20 252号 16面

バリスタの仕事は、「コーヒーを知り、マシーンを熟知し、気温・湿度を感じ、一杯のエスプレッソコーヒーに凝縮すること」と語るのは、昨年度世界バリスタチャンピオンのマーチン・ヒルブランド氏。昨年4月、マイアミで開催された世界スペシャリティーコーヒー協会主催の第二回バリスタ選手権にて、華麗な“技”と、秀でる“うまさ”で世界の競合に見事優勝した。料理人が腕をかわれ包丁一本で店を転々とできるのと同じように、マーチン氏は「工具箱」を携え、どの国のどの店のマシーンでも自在に調整してマーチンオリジナルのエスプレッソを提供する。

バリスタ。カフェで、エスプレッソコーヒーや、カプチーノを提供するかっこいい人気の職人。マシーンがあってこそ完成するエスプレッソだが、「すしロボットが握るすしと、カウンターで職人が握るすし」ほどの差がある。いずれもすし、されどすし。エスプレッソ大国のヨーロッパでは、「あのバリスタが入れたエスプレッソが最高」と指名があり、日本でも同様の現象が起こってきている。

日本のコーヒー市場に対し、「エスプレッソコーヒーは、チェーン展開もあり三~五年で今の二倍の市場が見込める」と明るい将来に期待。だが、そのための課題は多い。

今、デザインカプチーノが人気でバリスタは、デザインを描くことばかりにとらわれがちだが、「基本のエスプレッソコーヒーをおいしく抽出すること」が最も重要。その第二段階にカプチーノがある。基本の上に立ち、日本人に合う味覚に発展させていくのも必要。

バリスタはカウンターに立つ職人、すし職人のように。バリスタの地位向上を目指すことも課題と見る。

マーチン氏はコペンハーゲンの「カフェ・ヨーロッパ」が本拠地。そこに行き、運が良ければ最高品質のエスプレッソや、リーフを描いたカプチーノが楽しめる。世界チャンピオンが入れてくれたエスプレッソは、まさに開眼の味わいである。

マーチン氏がバリスタの道に入ったのが一二年前。はじめからおいしいエスプレッソだと自信はあったが、コーヒー豆についての書物を読み、マシーンについて単にコーヒーを入れるだけでなく、メンテナンスや調整する技術を習得し、さらにバリスタに関する情報を仕入れて「エスプレッソの原理」をつかんだ。

これを自身のものとすべく研究。天候、温度、湿度により、若干のぶれが生じる。これを微妙に調整したり、また牛乳を「マイクロバブル状」にする手法など、実際の訓練により習得した技も多い。

エスプレッソコーヒーはどうあるべきか。マーチン氏には理論がある。理論により、どこでも自身の味を出すことが可能なのだ。

エスプレッソコーヒーが注目を集める中、世界チャンピオンとしての活動は世界を股にかけてのものとなっている。「本当のエスプレッソを普及するのが今の使命」と考え自身で習得した技、ノウハウを教えることにも力を注いでいる。

◆私の逸品 「神の飲み物」を実感

エスプレッソコーヒーは「すべてがうまくいった時、とても魅力的な飲み物となる。神のための飲み物」だ。おいしいエスプレッソコーヒーを入れるためには、基本を守り、天候、気温、湿度により微妙に調整する。朝・昼・晩の三回、コーヒーのひき方、コーヒー粉の詰め方、抽出温度、抽出圧、抽出時間を調節をする。

カウンター越しに注文を受けて抽出。自分で入れたものとして、お客様から直接評価される。すべてに全力を注ぎ、情熱の結晶としてコーヒーが完成。良しあしは自分が一番よくわかる。

品質が問われるワインのように、コーヒーにひかれ、質の高いコーヒーを提供したいと見聞を深めた。目指すはコーヒーのソムリエ。この数年で自分で納得できるようになった。

◆横顔

マーチン・ヒルブランド=一九六八年デンマーク生まれ。ユトランドでウエーター、コペンハーゲンのシェラトンホテルでシェフとしてこの道に入った。ホテルの総支配人としての教育を受けたが、カフェで働く道を選びバリスタに。子供のころの愛称がコーヒー。まさに天職に巡りあった。働くのが大好き。コーヒーのために全力を傾ける。エネルギーを注げば注ぐほど、結果的に納得できる。

仕事を離れると、妻と三人の子供の家族に囲まれる。帰宅すると妻が入れた紅茶を飲むのがお気に入り。自分ではブラック(ミルク抜き)のエスプレッソを飲む。

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