この1品が客を呼ぶ:「皇庭餃子房」鉄鍋長焼餃子
昼はボリューム満点のランチで英気を養い、夜は一品料理をつまみにビールのグラスを傾けて一日の疲れを癒す。ここ「皇庭餃子房」では、そんな楽しみ方をするサラリーマンの姿が多く見られる。
そんな客たちを気持ちのいい笑顔でもてなすのは、オーナーの横山三紗さんだ。横山さんは今から四年前、ここ幡ヶ谷に中国家庭料理「皇庭花」をオープン。その半年後、客のニーズを受けてメニューを一新、餃子をメーンに据えたメニュー構成とし、店名も現在のものに改めた。以来今日に至るまで、押しも押されもせぬ人気メニューとして君臨しているのが「鉄鍋長焼餃子」(四個・五〇〇円)だ。
一一種類もの具材を使ったあんと、製麺所で特別に作らせた皮との相性が抜群のさえを見せる餃子は、従来の鉄鍋餃子とは一線を画する新鮮な味わいだ。
作り方は、まず豚ひき肉に背脂を加えてよく混ぜ、醤油、砂糖、塩、オイスターソース、ごま油、さらに紹興酒と老抽王を加えてコクを出し、ショウガのみじん切りと山芋のみじん切りを合わせてこねる。そこにキャベツと白菜、春雨、ザーサイ、長ネギ、スクランブルエッグを加えてさらに混ぜる。こうして出来上がったあんを冷蔵庫で寝かせ、オーダーが入るたびにニラのみじん切りを加えて一個一個巻く。あとは鉄鍋に並べて弱火で片面五分ずつ焼き上げれば完成だ。
「老抽王でコクを出し、山芋でねばり気を出し、卵でまろやかさを出し、最後にニラの風味を加えるなど、一つひとつの具材に重要な役割があります。だから手間もコストもかかりますが、一つとして欠かすことはできないんです」
皇庭餃子房では、鉄鍋長焼餃子のほかに「手作り水餃子」(五〇〇円)や「香港エビ蒸し餃子」(六〇〇円)、「三色餃子」(六〇〇円)といった餃子メニューがある。さらに、生ニンニクをたっぷり使い、酸味をおさえた「南方風酢豚」(七五〇円)や、紹興酒をアクセントにほんのりと甘みをきかせた「五目焼きそば」(七五〇円)、「地鶏のサクサク揚げ香りネギ醤油かけ」(八〇〇円)といったオリジナリティーあふれるメニュー構成。
「実は夫が中華料理の宅配チェーン店を経営しているのですが、中国各地から呼び寄せた三〇人のコックに、それぞれ得意な料理を作ってもらい、その中から日本人の口に合うものをメニューに取り入れたんです」
そう横山さんが言うように、皇庭餃子房に掲げられたメニューの特徴は、中国料理を日本人の口に合うようにアレンジするのではなく、日本人の好みに合う料理を本場の味そのままに提供することにある。ちなみに鉄鍋長焼餃子は北京出身のコックが紹介してくれた代表的な家庭料理の一つなのだという。
「だから五目焼きそばでも酢豚でも、いわゆる日本風の味つけをイメージして注文された方は、たいてい驚かれるようです。それでも皆さん残さずに食べてくれますし、次に来たときも注文してくれますから、必ずしも日本人の味覚に合わせる必要はないんだと思いますよ」
日本にいながらにして文字どおり本場の味が楽しめる。皇庭餃子房に足繁く通う常連客は、この上なく幸せなのかもしれない。
鉄鍋からジュージューと跳ねる油とともに、何とも香ばしいにおいが立ちのぼる。熱々を箸で挟むと、パリッと気持ちのよい音をたて、さらに香ばしいにおいが鼻腔を刺激。自慢の皮はなるほど食感がいいが、あんも一一種類の具材を使っているとあって、味も香りも食感も、すべてにおいて繊細で奥行きのある仕上がりになっている。
隠し味に使った紹興酒もさることながら、中国産の醤油・老抽王がコクのある味わいにひと役買っている。一本約五〇gとボリュームも申し分なしで、サラリーマンに支持されるのも納得だ。
◆「皇庭餃子房」=東京都渋谷区幡ヶ谷二‐一三‐六、電話03・3378・1467/坪数席数=14坪24席/営業時間=午前11時30分~午後3時、5時30分~11時、日曜定休
◆こだわりの食材 餃子の皮
「餃子は皮が命」と語る横山さん。市販の皮はもとより、各メーカーに勧められた業務用の皮も試したが、いずれも店の餃子には合わないと判断。そこで、都内の有名ホテルを専門に製造する製麺所で特別にオーダーし、オリジナルの皮を作った。なめらかで厚みのある皮にはもち米が入っており、これが焼き上がったときのパリパリッとした食感を演出する。「特別注文だから当然コストはかさむし、もち米入りだから温度や湿度の管理も大変なんですけど、この皮があってこその鉄鍋長焼餃子なのですからね」
◆記者席からのコメント
鉄鍋餃子といえば、今や焼き餃子と双璧を成すほどに一般に浸透した感があるが、そうした鉄鍋餃子とは趣を異にする独特の餃子を出す店があるという。「日本人の口に合わせて味つけを変えるのではなく、日本人の口に合う本場の味を提供する」をコンセプトに、躍進を続けている人気店「皇庭餃子房」を訪ねてみた。