近代メニューのルーツ(3)オムライス編 大阪心斎橋・北極星
オムライスは、日本の洋食を代表するメニューだ。外来のメニューだと思っている人もいるが、そのルーツは日本にある。さらにその誕生には、東京誕生説と大阪誕生説の2説があるという。今回は、大阪で「オムライスの元祖」として知られる「北極星」でそのルーツを探ってみた。
オムライス大阪誕生説の「北極星」は、大阪・心斎橋のアメリカ村近くにある。
今風の店が立ちならぶ街の一角にある純和風の店舗は、もともと昭和25年にデパートの接待用の茶寮として建てられたものだという。
古くから「オムライスの店」として親しまれ、遠方から食べに来る客も多い。
店の創業は大正11年。現在の社長・北橋茂登志氏の父上、北橋茂男氏が大阪・汐見橋に「パン屋の食堂」として開業したのが始まりだ。
店名は、北橋茂男氏がパンとグリルの店・神崎屋(神戸屋パンの前身)に勤務しながら、パンの小売といっしょに食堂をはじめたことに由来している。
メニュー価格は一品一〇銭。当時は、銭湯とそば屋のかけうどんがともに一〇銭、洋食はスエヒロのビーフステーキが八〇銭から一円、ホテルの朝食が一円から二円という時代で、まだ洋食が珍しい時に「一〇銭洋食」として庶民の人気を集めた。洋食を大衆向けにした意味で、今のファミリーレストランのはしりともいえる。
なかでもオムライスは、一人の常連客への思いやりから誕生した。
昭和35年、雑誌『痴蛙放談』に北橋茂男氏が書いた「手前味噌」というエッセーによると、「胃の悪い小高さんと言う雨具屋さんが毎日オムレツとホワイトライス(注=白飯)を食べに来られた、あまり毎日のことゆえ中味をトマトライスにして、玉子に巻いてだしたこれがオムレツとホワイトライスが代ってオムライスとなった、これで三六年前(注=大正15年)オムライスと言う日本語が出来た。」(注以外は原文のまま)というのがオムライスの誕生のいきさつだ。
その後、「今では日本全国の飲食店の陳列の中に、オムライスあり、東京で有名な上野の風月の店頭にまで『我がオムライスの蝋細工あり』」と北橋氏が驚いたくらい、オムライスは急速に広まっていったようだ。
現在の「北極星」という店名は、石川県金沢市出身の永井柳太郎氏(元文部大臣永井道雄氏の父)の命名によるもので、氏の「生活の道しるべせよ北極の天に輝く明星の如く」という生活の羅針盤となる店になる意を込めた言葉と姓の北橋、そして北陸出身であることがかけられている。
レシピ/(1)フライパンに油をひき、鶏肉、牛肉、エビなどの具材を炒める(2)溶き卵を加えて炒める(3)玉ネギ、マッシュルームを加える(4)白飯、塩、コショウを加える(5)酒、醤油、ワインで調味する(6)ケチャップを入れてさらに炒める(7)別鍋で焼いた薄焼き卵で包む(8)自家製特別ソースをかける
◆店舗メモ
北極星・心斎橋店/所在地=大阪市中央区西心斎橋二‐七‐二七、電話06・6211・7829/営業時間=午前11時30分~午後9時30分、無休/席数=一〇五席/主要メニュー=チキンオムライス(六五〇円)、きのこオムライス(六五〇円)、ハムオムライス(六二〇円)、ポークオムライス(六五〇円)、ビーフオムライス(七三〇円)/北極星グループとして大阪市と堺市を中心にオムライスの店を八店舗経営している。
◆社長のコメント 北極星産業(株)代表取締役 北橋茂登志さん
オムライスは現在、どこの洋食店にもあり、それぞれのお店が独自に工夫を凝らしたバリエーション豊富なメニューになっています。当店のオムライスは、先代から伝わる製法で作るシンプルなオムライスです。頑固なようですが、卵の巻き方ひとつ昔と変えていません。卵の半熟面を内側にして中のケチャップライスに卵がよくからまっている、おいしい元祖オムライスをぜひ一度食べにきてください。
◆この食材を愛用しています
◇ナガノトマトケチャップ3キログラム
オムライスのケチャップライスには欠くことができないのが、ナガノトマトケチャップです。オムライスは料理方法がシンプルなだけに、素材に繊細な味が求められます。
その点、この製品はトマトの甘みと酸味のバランスがよく生きているので、ご飯をおいしく炒めることができます。それに色が鮮やかなので、卵の色によく映えますね。他の製品に替えることのできないものです。
(株)ナガノトマト営業本部・業務用営業部(東京都渋谷区神宮前六‐二六‐一、電話03・5469・2013)
◇直源松印醤油
直源は創業一八二五年。石川県・白山の湧水を使用してつくった醤油です。私の郷里では、醤油といえばこの醤油というくらいに親しまれています。
当店でも創業以来、愛用しています。うまみが強いまろやかな味で、料理の味をよく引き立ててくれます。ケチャップライスを炒めるときや、特製ソースの隠し味として欠かせないおいしい醤油です。
直源醤油(株)(石川県金沢市大野町一‐五三、電話076・268・1113)
◆一口メモ
オムライスの誕生説は日本の東西にある。東の誕生説は、東京の洋食レストラン「煉瓦亭」が明治33年に、まかない食として作ったのがオムライスの始まりというもの。