この1品が客を呼ぶ:「総意屋(soiya)」満月

2003.05.05 268号 12面

ろうそくと間接照明の明かりを使った“いやしの空間”で、アジア各国の料理を巧みにアレンジした創作料理をたんのうする。そんなスタイルの店が、サラリーマンのハートをがっちりつかんだ。一番人気の「満月」は、見た目の美しさとスパイシーな味のミスマッチが受けて、多くの客が注文するという。

昨年5月、六本木にオープンした総意屋は、「大人のいやし」をキーワードにした店づくりで、三〇~四〇代のサラリーマンやOLを中心に人気を集めている。

間接照明とろうそくの明かりにやわらかく照らされた店内。ゆったりと配置されたテーブル席と、それを見渡すようにぽっかり浮かんだ中二階の座敷席。スピーカーから低く静かに流れるのは、心安らぐヒーリング・ミュージック。

そんなくつろぎの空間で味わえるのが、総意屋自慢の創作料理の数々だ。「インドからシルクロードを経て日本に至るまでの、アジア各国の料理をアレンジ」をコンセプトに、ユニークで印象的なメニューをラインアップしている。

「酉の簪(かんざし)」(九五〇円)は、タイ風のスパイシーな味わいに仕上げた焼き鳥。「マグロとアボカドのサクサク」(八五〇円)は、マグロとアボカドをあえ、もなかの皮で包んだ独創性豊かな一品。

そして一番人気の「満月」(九五〇円)は、漆黒の夜空を思わせる真っ黒な大皿の中央に、文字通り満月がぽっかり浮かんだような美しい外観。たなびく雲に見立てた春雨もまた、心憎い演出である。見た目は純和風だが、中身は鶏ひき肉のバジル炒めをベースにした、タイ料理のアレンジだ。

店長の大橋啓太郎さんは言う。

「タイのガパオという家庭料理がヒントなんです。オープン前にスタッフ数人で現地を訪ねて、本場のガパオを食べて回りました。でも『タイにはレシピがない』といわれるように、それぞれ微妙に味が違うんです。おまけに何を聞いてもだれも教えてくれません。それでいろいろ試して、ようやく私たち日本人が食べてもおいしいと思える味に仕上げた、というわけです」

満月は鶏ひき肉のバジル炒めと、半熟卵、ご飯、そして卵そぼろの四層構造になっている。まず、ピッキヌというタイの青唐辛子を炒め、鶏ひき肉を加えてさらに炒める。次に五ミリメートル幅にカットしたタケノコとインゲン、少量の塩を加えてさっと炒め、オイスターソースやニンニク、唐辛子などを混ぜたバジルベースのソースを加える。

最後にナンプラーとチリオイルで香りをつけ、砂糖をひとつまみ入れて完成だ。これを型に入れ、半熟卵、ご飯、卵そぼろを重ねるという寸法である。

それにしても、なぜ「満月」なのだろうか。

「ただ食べてもらうのではなく、美的情緒も味わっていただきたいんです。はしを入れる前のほんのひとときだけでも、目で楽しんでもらえたらいいな、と」

大橋さん。なるほど、ほかのメニューを見ても、色とりどりの食用花をクラッシュアイスの上にきれいに盛りつけた「光花」(一三〇〇円)や、和菓子のような外観で女性に人気の「和菓子膳」各種など、いずれもテーブルを華やかに彩る美しいものばかりだ。

これらの料理を楽しみながらいただくのが、緑茶の焼酎「美禄」や、温かいお茶のカクテル「桃源茶」と「温心茶」(各七〇〇円)。各種ハーブティーも人気。

「大人のいやし」とはよくいったもので、勤め帰りのサラリーマン諸兄がこぞって訪れるのもうなずける一軒である。

◆こだわりの食材 各種調味料

アジア各国の料理をアレンジしたとあって、総意屋で使用する調味料はアジア各国のものが多い。タイ料理のガパオをヒントにした満月は、調味料もタイならではのものを使用。写真右手前のピッキヌは、タイ語で「ネズミのフン」を意味する青唐辛子。写真奥のチリオイルは、いわばタイのラー油だ。いずれも本場タイから直接取り寄せている。そして何より、満月の味を決定づけるバジルソースは、バジルをオイスターソースやニンニク、唐辛子など各種調味料と合わせた特製ブレンド。

◆記者席からのコメント

鮮やかな黄色が映えるそぼろ卵が乗った満月は、はしを入れるのが惜しく感じるほど美しい。が、香ばしいバジルの風味にそそられ、口に入れると、もうはしが止まらない。和の風情を感じさせる見た目とは裏腹に、ピッキヌとチリオイルがエスニックなピリ辛風味を演出し、食欲をそそる。

また、ナンプラーのうまみが味に深みを与え、まろやかな半熟卵も名脇役として全体の味を引き立てている。アジアンテーストあふれるくつろぎの空間でいただくと、浮き世を忘れ身も心も開放されるような心地よい気分になる。

◆「総意屋」(soiya)=東京都港区六本木三‐一四‐七、アロービル地下一階、電話03・5413・5499/坪数・席数=三六坪・七八席/営業時間=午前11時30分~午後2時、5時~午前0時(金・土曜は~午前5時)、無休

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