この1品が客を呼ぶ:「醍醐」豆腐とトマトのグラタン
「低カロリーで栄養価も豊富な健康食」をコンセプトに、東京都杉並区が推進する「ヘルシーメニュー」事業。今年3月、新たに認証されたのは、低カロリーとは縁遠いはずのグラタンであった。洋食中の洋食ともいえるグラタンを、いかにして低カロリーに仕上げたのだろうか。
東京都杉並区では、区民の健康的な食環境づくりの一環として「ヘルシーメニュー推奨店」という事業を推進している。これは区内で営業する飲食店が、これぞヘルシーメニューという料理を区に申請し、カロリーや塩分、脂質、栄養バランスなど、保健所の細かい審査をクリアした店のみが認証されるというものだ。今年3月に新たに認証された二六店舗を加え、現在までに計六九店舗が認証されている。
JR中央線、高円寺駅前の純情商店街に建つカフェレストラン「醍醐」は、新メニュー「豆腐とトマトのグラタン」(六八〇円)を引っさげて新たに名乗りを上げた一軒だ。
だが、ほかの店が一様に人気メニューを申請している中にあって、創業二〇年を誇る醍醐がなぜ新メニューなのだろうか。
「うちはハンバーグやステーキといった洋食が中心ですから、もともとカロリーが高めのメニューが多いというのが理由の一つではあるのですが、決められたテーマに基づいてメニューを作るという初めての試みに、挑戦してみたくなったんです」とは、オーナーシェフの小助川秀雄さん。
小助川さんはヘルシーメニューを作るにあたって、三つの課題を自らに課した。一つは余計な油を使わないこと、一つは野菜を多く取り入れること、そしてもう一つは、だしがきちんと出る食材を使うことだ。
「ヘルシーといえば、カロリーを抑えるのが大前提ですよね。でも今までは、お客さんが洋食を食べるのはスタミナをつけるためだ、というような考えが漠然とあったので、カロリーについてはあまり気にしていませんでした」
そんな小助川さんがあえて挑んだのが、洋食の代表ともいえるグラタンだった。食材の組み合わせとカロリー、栄養バランスなどを比較検討した結果、豆腐をベースにトマトソースで仕上げることにした。そのときすでに、小助川さんの頭の中には細かいレシピが完成していた。
「ところがいざ作ってみたら、どこかひと味足りないんです。そこでミートソースを加え、さらに椎茸を混ぜてコクと香りを出したんです」
使用する豆腐は、腰のしっかりした木綿豆腐一〇〇g。これに小麦粉をまぶしてさっと揚げて器に移し、自家製のミートソースと椎茸を加える。
さらにトマトソースとミックスチーズ、少量のバターを加え、二五〇度のオーブンで約五分間焼き上げ、パセリのみじん切りをひと振りすれば完成だ。
「カロリーは七九〇に抑えました。もっと落とすことももちろん可能でしたが、そうすればするだけ、味もそれなりのものになりますからね」
味を落とさずにカロリーを落とす。そのぎりぎりの妥協点が七九〇kカロリーだったというわけだ。
かくして誕生した「豆腐とトマトのグラタン」は、この5月から新メニューとして登場。以来、またたく間に人気メニューの一つに数えられるまでになった。
「ヘルシー志向の高まりを改めて感じました。これを機に、今後も低カロリーをテーマにメニューを作ってみようかと思います」
そのひと言に、料理人の心意気を垣間見た。
◆「醍醐」=東京都杉並区高円寺北三‐二四‐一〇、電話03・3339・3264/坪数席数=一七坪二四席/営業時間=午前11時30分~午前0時30分(日曜午後11時まで、木曜定休)
◆こだわりの食材 つのだの自然卵
ここ醍醐では、添加物や抗生物質、遺伝子組み換えトウモロコシなど一切使用せず、天然の飼料のみ使って育てた地鶏の卵を使用。「私が子供のころに飼っていた鶏の卵の味が忘れられないんです。その味を探し求めてようやく出合ったのがこの卵なんです」。小助川さんいわく、ナチュラルでありながらコクのある味わいだとか。オムレツはもちろん、ハンバーグのつなぎなど、醍醐で使う卵はすべてこの卵だという。「もちろん割高ではありますが、やっぱりおいしい味には代えられません」
(問い合わせ=角田養鶏場、電話027・233・3891)
◆記者席からのコメント
豆腐の食感が、まずよい。トロトロに溶けたチーズとトマトソースとの相性も申し分なし。ともすれば淡白になりがちな豆腐の味を引き立てるのが、玉ネギと牛ひき肉、デミグラスソースをたっぷり使った自家製ミートソースだ。加えて、椎茸の香ばしさが味にいっそうのコクと深みを与えている。
単にパスタの代わりに豆腐を使用して低カロリーを図るのではなく、カロリーと味のバランスを考え抜いた味作りには脱帽である。二〇年間にわたり店の看板を守り続けてきた気概を十二分に感じさせてくれる一品だ。