施設内飲食店舗シリーズ お茶の水ビル「サンクレール」

1993.05.17 28号 6面

JR御茶ノ水駅の聖橋口を出ると、目の前に大きなビルがそびえ立っている。新お茶の水ビルである。建坪面積約四〇〇坪地下二階、地上二一階建の高層ビルで、地下一階と地上一、二、三階の低層階に飲食や物販、銀行、サービスショップなどの商業施設、四階以上二〇階までがオフィスで就業人口三〇〇〇人、最上階の二一階に中国レストラン(銀座アスター)が入居するというフロア構成の都市ビルである。

昭和56年9月の竣工で、それ以前は日本出版販売㈱の自社ビルだった。ビルの老朽化対策と駅前再開発事業の一環として高層ビル建設を具体化したもの。

広場の一角には地下鉄千代田線の新御茶ノ水駅の出入口があり、JRへの乗り換え客や地域およびビル施設への人の流れで、都市空間らしい独自の賑わいをみせている。

ビル施設の商業ゾーンは「サンクレール」商店街を形成しており、飲食店舗を中心にして雑貨、文具、DPE、絵画ショップ、旅行代理店、銀行などが出店している。サンクレールはオフィスが入居する本体のビルとは別棟(二階建)の形をみせているが、地下一階部分は地上からも直接降りていけるようパテオ(中庭)スタイルになっているほか、オフィス棟の地下一階スペースに直結、サンクレール地下部分の商業ゾーンを形成するフロア構成。

この商業ゾーンは、地下鉄千代田線にもジョイントしており、交通アクセスの面でも利便性の高い施設機能となっている。このため、地下鉄から直接にサンクレールの商業ゾーンにアプローチすることができ、集客機能を発揮。

千代田線は大手町を経由して代々木上原(渋谷区)と綾瀬(葛飾区)を結ぶ通勤、通学の大動脈で、新御茶ノ水駅は一日平均一六万三〇〇〇人の乗降者数がある。

参考までに記しておくと、JR御茶ノ水駅は約二五万人の乗降者数で、この二つの駅の乗降者数を、単純に加算すれば、一日平均四七万六〇〇〇人台の人々が来街するということになる。

実際はJR、地下鉄間の双方の乗り換え客がいるので、二駅間の乗降者数は何割かディスカウントされなければならないが、しかし、仮にJRの乗降者数の五%の人がサンクレールにやってくるとすると、一万二五〇〇人、この倍で二万五〇〇〇人という数字になり、商業ゾーンでの消費チャンスは大きい。

事実、この施設は昼どきから夜の8、9時ごろまで人の往来が衰えることなく賑わっており、お茶の水界隈最大の“都市・商業ゾーン”という様相を呈している。

「オフィスと一体化した都市ビルで、周辺にも大手企業や病院などの施設が多く、またJRや地下鉄とも直結した形になっていますから、一階や地下の飲食店舗を利用する人は多いんです」(新お茶の水ビルディング管理事務所)。

飲食店舗はハンバーガーなどのファーストフードから和洋中レストランまで多様な業態が出店しており、学生から会社の接待利用まで全方位の飲食ニーズを満たすことができる。店舗数は別掲(表)のとおりで、地上二階が二店、地上一階二店、地下一階一一店の計一五店舗が入居している。

◆万世 低単価で独自の集客

サンクレール商店街の飲食店舗は、平均店な大きさは五〇~八〇坪前後だが、一五店舗の総面積は約一一〇〇坪、客席数同一二六〇席で、お茶の水地域では最大の飲食ゾーンを誇る。このデータに、常識的な数字として昼二回転、夜三回転の計五回転を乗じれば、トータルの客数は満席率七、八割で一日当たりの乗客数が五、六〇〇〇人前後で、JR乗降者数(二五万人)の二、三%がサンクレールの飲食施設を利用しているということになる。これはあくまでも試算であるが、さらにこれに一般的な数字の坪売上げ一万円を乗じてみれば、同飲食ゾーンのトータルの売上げは最低でも日商一一〇〇万円という計算になり、独自の飲食マーケットを形成しているということが理解できる。なお、次の四店舗を取材したので、その概要を紹介しておくことにする。

《万 世》 ステーキとハンバークが主力メニューだが、近隣地に本店があるので、お茶の水店は単品単価も比較的安いメニュー構成で、独自の集客機能を発揮している。

定番メニューはサーロインステーキ四二五〇円、和牛ステーキ二八三〇円、ガーリックステーキ二二八〇円、鉄板焼九八〇円、和風ハンバーグ一〇八〇円、ジャンボハンバーガー一二二〇円、ハンバーグとシーフードフライ一四三〇円、ロースカツ一〇二〇円、ヒレカツ一一七〇円など。

ランチサービスはステーキ一三〇〇円、和牛みそ焼ステーキと海老フライ一三四〇円、ハンバーグカルビ焼一一二〇円、鉄板焼一四三〇円。

客層は昼どきは七、八割がサラリーマンやOL、学生など。夜と土・日はカップルやファミリー客が多くなる。客単価は昼一〇〇〇~一五〇〇円、夜が二五〇〇円前後といったところ。一日の来客数六〇〇人。店舗面積八〇坪、客席数七二席、単純計算すれば、一日一二〇万円前後の売上げ。

◆ジャック&ベティクラブ

店舗面積六七坪、客席一二〇席。サンドイッチ、サラダ、アントレ、スープ、ケーキ、ワイン、コーヒーなど多様なメニューを揃えており、若い女性客やカップル、学生層の感性と嗜好を捉えた店舗運営を展開しており、姉妹店が六本木、渋谷、池袋などにもある。

基本的には好みのメニューをセルフサービスでチョイスシステムになっているが、アイドルタイムにはウエートレスサービスも加味している。

客層は女性七割、男性三割という比率だが、土・日にはファミリー客の利用も多くなる。

代表的メニューはチキンジンジャー七三〇円、チャイナボウル六三〇円、ハンバーグドリア八三〇円ほか、ハヤシライス六九〇円、カレー六五〇円、スパゲティ五五〇~六三〇円など。

客単価は一〇〇〇円前後。平均日商八〇~九〇万円。坪一万二〇〇〇円以上を売っている。

◆ビストロ備前 旬の一級品

《ビストロ備前》 フランスレストランには似つかわしくない店名だが、「備前焼」の器に「仏料理」を盛り付けるという意味で、このネーミングになったという。つまり、和の落ち着きと深味、フランス料理の繊細さとソフィスティケートさを調和させたというのだが、備前焼といってもただの備前焼ではない。

人間国宝の故藤原啓氏の長男雄氏が焼くオリジナルの器で、雄氏は父親譲りの才能を発揮して、数々のグランプリを受けるなど、日本はもとより世界でも知られた第一級の陶芸家である。料理は仏料理二〇年のキャリアの安達実シェフが作る。

安達シェフはとくに魚介類の料理を得意とするが、店の経営を任させられている以上は、オールマイティーでなくてはならず、メーンディッシュからデザート、小菓子の類まで何でも作り上げてしまう。料理ばかりではない。オーナーの意に沿って営業面でも成果を上げなくてはならないので、独自の経営センスも持ち合わせている。

「オーナーが望むいい結果を出すには、数字が最初にあるのではなく、常々最高の仕事をしてお客さんに満足していただく、その結果として営業の成果が出てくる。備前焼の器は店の付加価値ということになるわけですが、料理の中身がなっていなくてはとんでもない恥をかいてしまう」(安達シェフ)。

材料は富山産の白エビ、仙台産の生ガキというように、旬のもので、第一級品を使う。ランチ二〇〇〇~五〇〇〇円、ディナー七〇〇〇~一万二〇〇〇円。客層は昼は婦人客が九割、夜は会社の接待利用や宮内庁、大蔵省といった役所関係の男性客が五割。客単価は昼四〇〇〇円、夜一万円。結果がこの店の実力を十分に物語っている。

◆つきじ植むら 店格で固定客

《つきじ植むら (知足亭)》 東京を中心にして全国の主要都市五〇店近くを出店している。お茶の水店は昨年11月のオープンで、サンクレールでは一番の新顔店ということになる。

店舗面積七〇坪、客席はテーブル席一〇〇席、一六名収容の座敷三室、六名収容の個室一部屋で、最大一五六名を収容できる。木造りの落ち着いた店構えで、店の隅々に高級感を漂わせている。着物姿の女性フロアスタッフの折り目正しい接客マナーも、それを強く訴求している。

日本料理としゃぶしゃぶが看板料理だが、イクラ丼一五〇〇円、海鮮丼一八〇〇円、刺身釜めし三五〇〇円などのランチサービスも実施しており、サラリーマンが気軽に利用できる面もある。しかし、「つきじ植むら」といえば、高級イメージが浸透しているので、企業の管理職クラスでなくては入れないという雰囲気もある。

「値段は高くはないと思うんですが、店のイメージの面で客層が拡げにくく、損しているところもあると思います」(安生義信店長)。高い価格帯で八〇〇〇円の会席料理もあるが、三八〇〇円でしゃぶしゃぶ(肉と野菜)の食べ放題もある。

ストアイメージの面で一般サラリーマン客にとっては敷居が高い印象もあるが、しかし、それが「店格」ということになって、地域企業や病院関係者などに利用されて、好成績を収めている面もある。

もっとも、バブルがはじけて客数が一、二割減った。一日の来客数は二五〇人。平均客単価四五〇〇~五〇〇〇円といったところ。

平均日商一二〇万円前後。坪売上げ一万七〇〇〇円。客数が減ったといっても、好実績を上げている。客層は昼時はビジネスマンや婦人客など五割五割、夜は会社接待などで男性客が八割になる。

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